初年度,2年目とステンレス鋼への細穴放電加工における電極外周部に成形したストレート溝および特注異形状断面パイプ電極の効果を調べてきた.このとき,異形状断面パイプ電極の内径が大きかったことから加工液噴出圧を低くするなど,その影響も調べてきた. 最終年度は,従来対象としていたステンレス鋼から炭素鋼に被加工材を変更し加工液噴出圧変化の影響に注目し細穴加工実験を繰り返した.直径1mmの市販黄銅パイプ電極を用い,高さ150mmのS45C炭素鋼に対して,細穴貫通加工を行った.加工機メーカー推奨の加工液噴出ポンプ圧は5MPaであるが,それに加え3MPa,1MPaの3種類のポンプ圧で比較した.ステンレス鋼への加工では,5MPaの場合,加工深さが深くなると放電状態が不安定となり電極の引き上げ動作が頻発して加工が進行しない状態が長く続いたが,炭素鋼の場合,加工深さが浅い箇所および中過ぎの2箇所において放電不安定状態が確認された.ただし,加工深さが深くなってからの放電不安定状態は発生せず,貫通穴加工が終了している.一方,3MPaでは加工途中で1箇所ほど放電不安定状態が発生し,1MPaでは,放電不安定状態は発生せず加工は安定的に進行した.ただし,その場合の加工時間に対する主軸降下量の傾き(加工速度)は5MPa,3MPaの場合よりも小さく,穴貫通までは長時間を要した. このような現象より,5MPaの加工において放電波形のリアルタイム観察および主軸挙動の観察を行い,放電不安定状態を認識できれば,ポンプ圧を下げるようなアクティブ制御により放電不安定性を解消でき,結果としてより高速に高アスペクト比の放電穴加工が可能になるのではないかとの知見を得るに至った.
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