研究課題/領域番号 |
20K04224
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
坂本 二郎 金沢大学, 設計製造技術研究所, 教授 (20205769)
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研究分担者 |
北山 哲士 金沢大学, 設計製造技術研究所, 教授 (90339698)
茅原 崇徳 金沢大学, 新学術創成研究機構, 助教 (00582967)
伊藤 誠 金沢大学, 機械工学系, 助教 (30845160)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生体力学 / バイオ材料力学 / 最適設計 / 計算力学 / データベース |
研究実績の概要 |
本研究では,外骨格を持つ生物の外骨格形態に基づいて機械の筐体や板殻構造の設計を創出する方法の開発する.そのため,①外骨格構造の力学的最適性や頑健性の解明,②その特徴を反映した機械構造設計手法の開発,③機械構造への応用と有効性の検証を研究目的としている. 令和2年度は主として①について,カニのハサミを対象として研究をを行った.カニのハサミは,その体重に比して非常に大きな力を出すことができる.生物が発揮できる体重当たりの力としては,カニのハサミによる力が最大であることが知られている.工学的な観点では,カニのハサミはシェル構造からなる軽量高強度なグリッパと見做すことができ,バイオニックデザインの対象として相応しい.カニのハサミの形態計測に基づく機能評価の研究は幾つか行われているものの,力学的視点に基づく強度評価を行った研究はあまり見られない.本研究では,特徴的な異なる形状を持つカニのハサミを対象として,等価な荷重条件の下で応力解析を行い,その結果の比較から,それぞれのハサミの形状の力学的適応について考察した.具体的には,水生のズワイガニと陸生に適したアカテガニのハサミを対象とし,採取したハサミを指節と掌節の二つに分離してCTスキャンを行い,そのデータに基づき,三次元形状を忠実に反映した有限要素モデルをシェル要素を用いて作成した.材料力学のスケーリング則により両者をスケーリングして,掌節遠位を固定しハサミ先端に荷重を与える解析を行い,全体剛性と最大主応力を比較した.その結果,ズワイガニのハサミはそのサイズに対して相対的に板厚を厚くすることで強度を高めていることがわかった.一方,アカテガニのハサミでは強度的に優れた形状が地上生活にも適した軽さを実現していることが示唆された.以上の研究により,カニのハサミがその生育環境に力学的に適した形態を持つ可能性を示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では以下の計画で研究を進めることとしている.①外骨格構造の力学的な最適性や頑健性の分析をR2Q1からR4Q2で,②外骨格を用いた設計手法の開発をR2Q4からR3Q4で,③外骨格の形状最適化と機械設計への応用をR3Q3からR4Q4で実施する.(ここで,R2 - R4は年度を,Q1 - Q4は各年度の四半期を示す.) 令和2年度は①について以下の研究を進める計画としていた.①-1:生物の外骨格を入手してCT画像の撮影を行い,その画像に基づき力学解析用の三次元有限要素モデルを作成する.①-2:これに仮定した境界条件やその境界条件の変動を与えて有限要素解析を行い,外骨格の強度や応力分布とその変動を求め,力学的な最適性や頑健性を分析する.これに対し現状では,2種類の特徴的なカニのハサミを対象として①-1の内容を完了している.①-2の内容については,2種類のカニのハサミの応力解析を行い,両者の比較から力学的な適応が存在する可能性を得てはいるが,明確な最適性や頑健性までを示すには至っていない点で,実施状況としては不十分でやや遅れている.これは,当初の予想以上にカニの種類の違いによるハサミの形態の違いが大きく,それぞれの力学的特性をどのように比較するかで困難に直面したことによる.しかし,その検討の過程において,はりの曲げ理論に基づくスケーリング則を用い両者をスケーリングすることで,同等な荷重条件下で全体剛性や最大応力を比較できることがわかった.この考え方は,異なる寸法・形状を有する外骨格構造を定量的に比較する基準を定める上で有効である.外骨格構造の最適性・頑健性の分析では研究の進行がやや遅れており,カニの以外の甲虫類を対象とした三次元有限要素モデルの作成も十分ではないが,今後の最適性の分析や最適設計手法の開発において活用できる基準化の方法を得たことは大きな成果と言える.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は当初の計画通り,①外骨格構造の力学的な最適性や頑健性の分析を継続し,②外骨格を用いた設計手法の開発を行い,③外骨格の形状最適化と機械設計への応用に取り掛かる. 現状では,①の項目に関連し,カニのハサミにおける力学的な最適性や頑健性を定量的に明らかにする点では進行がやや遅れており,また,カニのハサミ以外の甲虫類の角や顎,カメの甲羅等を対象とした検討についても遅れている.しかし,前年度までの研究において,CT 画像から外骨格形状に忠実な三次元有限要素モデルを作成する方法は確立しており,力学的な最適性や頑健性を定量的に比較する方法についても目処がついていることから,これらの作業を進める上での困難は少なく,遅れは十分カバーできるものと考えている.②の外骨格を用いた設計手法については,過去の研究で開発した動物の骨形状を用いた設計手法を大きく変更することなく適用できることから,効率的に進めることが可能である.その設計手法を実施する上で最も困難な点は,異なる形状を持つ複数の外骨格構造に同じメッシュパターンの要素分割を与えるメッシュマッチングの過程である.様々な形状の構造にメッシュマッチングを行うことができれば,ベーシスベクトル法を用いて,それらの形状を合成して設計変更することは難しくない.動物の骨形状について開発したメッシュマッチング法が外骨格構造に適合しない場合も想定し,自作のプログラムを修正するだけでなく,市販のメッシュ作成ソフトウェアを利用してマッシュマッチングを行う方法についても検討する. 令和3年度後半には③の外骨格の形状最適化と機械設計への応用に取り掛かる予定であるが,ここではカニのハサミの形状に基づいた軽量高強度なグリップ構造の設計を目指す.全体構造の最適化が困難な場合は,指節もしくは掌節のみを対象にして,それぞれの形状を最適化する設計を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染抑制のため,学会参加や資料収集のための出張ができずに,当初計画していた出張旅費や学会参加費を使用することができなかった.そのため,計画を変更して旅費で使用できなかった分を主として物品費に充当したが,その全てを充当するまでには至らず,次年度使用額が生じた.引き続き新型コロナ感染抑制のため国内外の出張は難しい状況と考えられるため,次年度使用額分(122,834円)については,令和3年度においてオンラインでの学術集会参加登録費や,論文の作成のために必要な費用(英文校閲費やデータ取りまとめの謝金等)及び学術誌への論文掲載料に充当する. 令和3年度の予算計画においても,国内外の旅費として50万円程度が見込まれていたが,これについても新型コロナ感染の現状に対応して,オンラインにおける学会・研究会の参加登録費や論文の作成のために必要な費用に充てる.旅費が少なくなる見込みの一方で,オンラインでの研究活動が増えたため,それに必要な電子機器等の物品費の増加が見込まれる.当初予定よりも旅費の使用を減額し,物品費の使用を増額することとする.
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