本研究では,製品使用中にユーザーが感じている「使い心地」を定量的に評価するための生体情報の分析技術を開発した。本評価プロセスは,生体情報から抽出した特徴量パターンの機械学習を行い,製品使用前を基準状態として製品使用中の特徴量パターンとの差異を比較することで使い心地を定量化する。また,測定の個人差やセンサ着脱によるばらつきに対してロバストな分析を可能とするために,基準状態の測定や分析はセンサ装着後に一連の測定により実施する。機械学習にはMTシステム(Mahalanobis-Taguchi System)を採用し,製品使用前の基準状態のみを1min程度の短時間学習することで使い心地を分析することを可能とした。MTシステムでは特徴量パターンの差異をマハラノビス距離(MD値)で数値化する。本研究ではこれを使い心地の評価値として採用した。 研究期間全体を通じて,適切な評価プロセス構築のための生体情報と特徴量の選定を行い,実物の製品評価に適用することで実験的な検証を行った。特に,コンピュータのマウス操作性の比較評価を行なった検討では,脈波と脳波から抽出した特徴量パターンを用いて,実験協力者の主観によく合うMD値を得た。また,これらの実験から,より適した基準状態を構築するために必要な条件が示唆され,これは以降の研究における重要な指針となっている。2022年度には,接触式センサの装着具合によるばらつきを除去するために非接触センサに着目し,顔の映像から画像処理で抽出した特徴量パターンを分析した。この結果からは,本研究で開発した評価プロセスが映像情報を含むさまざまな生体情報に適用可能であることが示された。他の生体情報や特徴量の検討結果も含め,本研究で得た成果は,使い心地という人間の感覚を定量化して製品設計に活用するための技術の実現に貢献すると考えられる。
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