研究課題/領域番号 |
20K04258
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
西 泰行 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (50585122)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小水力 / 水車 / 軸流羽根車 / 集水装置 / 開水路 / 自由表面 / 進化的計算法 / 多目的最適化 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,前年度に集水装置のみを対象として最適化したL9最適化水車に対し,VOF法による自由表面を考慮した非定常混相流解析を行い,性能特性を評価した.その結果,L9最適化水車は原型水車に対して出力係数が+11.6%,推力係数が+2.6%,圧力回復係数が-28.3%,背圧係数が-21.5%であり,前年度の実験結果(出力係数が+9.0%,推力係数(集水装置のみ)が+3.5%)と同様の傾向が得られることを確認した. 一方,本水車の集水装置および羽根車を同時に最適化するため,集水装置から3個(ディフューザ長さ,つば長さ,両広がり角),羽根車から10個(5つの無次元半径位置0.12,0.25,0.50,0.75,1.00における翼弦長および翼角度)を設計変数とし,出力係数,推力係数,圧力回復係数,背圧係数の4つの性能特性を目的関数とした多目的最適化設計法を構築した.実験計画法はL27直交表,性能特性の評価は定常単相流解析,応答曲面法はKriging法,多目的最適化手法はNSGA-ⅡアルゴリズムをベースとしたNSEA+,パレート解からの最適解候補の抽出は自己組織化マップ(SOM)を用いた.本設計法により得られたL27最適化水車の単相流解析値は原型水車に対して出力係数が-0.8%,推力係数が+1.7%,背圧係数が+1.2%とほぼ同等で,圧力回復係数が-26.6%と大幅に減少させることができた. そこで,開放型回流水槽を用いて性能試験および推力測定を行い,L27最適化水車は原型水車に対して推力係数(集水装置のみ)がやや増加したが,出力係数が大幅に向上させられることを実証した.さらに,混相流解析を行い,L27最適化水車は出力係数が実験結果ほど向上しないものの,原型水車やL9最適化水車よりも推力があまり増加せず,出力が向上する傾向は実験結果と一致することを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は,前年度に集水装置のみを対象として多目的最適化したL9最適化水車に対し,自由表面を考慮した混相流解析を行い,出力係数および推力係数(集水装置のみ)の実験結果と比較することで本解析の妥当性を検証した.ただし,今年度に予定していた水深を含む水車周りの流れ計測が実施できなかったため,流れ場の検証については次年度に実施する. 一方,本水車の集水装置および羽根車を同時に多目的最適化する設計法を構築し,その設計法を適用して原型水車に対して単相流解析値で出力係数が-0.8%,推力係数が+1.7%,背圧係数が+1.2%とほぼ同等で,圧力回復係数が-26.6%と大幅に減少させたL27最適化水車を得ることができた. このL27最適化水車に対して開放型回流水槽を用いた実験(性能試験,推力測定)および自由表面を考慮した混相流解析を実施し,L27最適化水車は原型水車やL9最適化水車よりも推力係数がやや増加するが,出力係数が大幅に向上することを実証した.すなわち,単相流解析による性能評価を用いて出力係数,推力係数および背圧係数が同等で,圧力回復係数を大幅に減少させるように集水装置だけでなく羽根車を含めて同時に多目的最適化することで,開水路において推力を抑制しつつ出力を大幅に向上させられることを実証できた. さらに,当初計画していなかったが,圧力回復係数の影響を明らかにするため,前述のL27最適化水車に加えて,原型水車に対して圧力回復係数を約-10%と約-35%に変化させた2つのコンセプトの最適化水車を多目的最適化設計法により探索した.その結果,単相流解析値で原型水車に対して出力係数-17.1%・圧力回復係数-33.8%および出力係数+4.3%・圧力回復係数-10.5%の2つの最適化水車を得ることができた.この2つの最適化水車に対し,現在,自由表面を考慮した混相流解析を実施中である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和4年度は,今年度に実施を計画していたL9最適化水車に加え,L27最適化水車の水深を含む流れ場をPIV(粒子画像流速測定法)計測および容量式波高計を用いた水深計測により調査し,混相流解析結果と比較検討する. また,当初計画していなかった原型水車に対して圧力回復係数を約-10%と約-35%に変化させた2つのコンセプトの最適化水車の混相流解析を完了させ,性能特性および流れ場を調査する. 以上の実験および解析結果より,各コンセプトの最適化水車の性能特性と流れ場の関係性を詳細に調べ,開水路における集水増速作用と出力向上メカニズムについて検討する.
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