本研究課題は,外円筒が静止し内円筒の回転する同心二重円筒間に生じる乱流(テイラー・クエット乱流)の摩擦抵抗及び対流熱伝達に及ぼす,進行波制御の影響を明らかにすることを目的としている. 前年度において,実現可能性の高い長波長の進行波に焦点を当てたのに引き続き,当該年度は同じく実現しやすいと思われる低振幅の進行波の影響を明らかにすることを試みた.参照した振幅は,本研究課題の背景となっている電動機においてコイルを固定するティースに許容され得る振動の振幅である.振幅以外の進行波のパラメータは,制御を印加する面・波数・位相速度である.典型的なインナーロータ型の電動機への応用を想定し,ティースの存在する外円筒に対して進行波制御を行った所,前々年度において得られたように,内円筒の回転方向と逆方向に進行する進行波において,振幅と位相速度にほぼ比例する抵抗低減効果が得られた.ただし,抵抗低減効果は位相速度の絶対値がロータ回転速度の3倍程度以上でないと得られず,また,電動機に許容され得るサブミクロンオーダーの振幅ではその効果も非常に限定的であることが示された. また,そもそも実電動機のティース表面が平滑ではないことにも着目し,進行波制御の効果が発現しうる滑らかさをシミュレーションによって特定した.その結果,ティース・ティース間における凹凸の段差は,少なくとも壁面粘性長さの10倍程度以内に抑えられていないと抵抗が著しく増大するという知見が得られた.
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