研究課題/領域番号 |
20K04261
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
太田 貴士 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (10273583)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乱流 / 液体金属 / 凝固 / 溶融 / 非ニュートン粘性流体 / 直接数値シミュレーション / データベース / 乱流モデル |
研究実績の概要 |
乱流状態で流れる液体金属の凝固現象を数値シミュレーションで再現するために、乱流の直接数値シミュレーションと組み合わせるフェーズフィールド法を定量的フェーズフィールド法に置き換えることを試みた。液体金属を想定した固液界面における界面厚さの特徴を想定した現象の観察が可能になることが期待できる。さらに、固液界面を数値解析上のパラメーター設定に依存せず、高解像度に予測できることになる。その結果として、乱流のような複雑流動に起因する凝固材料の欠陥と残留応力の予測と制御のために、普遍的な観点でメカニズムを解明できる。このように、本研究プロジェクトの成果の適用範囲を拡大することを目指して、数値解析法の発展的な改良を試みた。 解析対象になっている物理現象の周辺を詳細に調査して、本研究成果が関わる状況を明らかにするために、固液界面の一様溶融現象を伴う壁乱流の変調を調べるための直接数値シミュレーションも実行した。そして、その結果より、壁乱流の乱流エネルギーが増加して、乱流強度が大きくなる傾向を観察した。さらに、乱流強度が大きくなるメカニズムを調査して、溶融に関するパラメーターと乱流強度の変化の関係を予測するための手法を導出することを目指した。特に、エネルギー生成メカニズムが強くなるように作用する乱流の瞬時構造に注目した。 本研究プロジェクトの最終年度に向けて、乱流モデルの導出ための基礎的な研究として、粗面乱流のためのラージエディーシミュレーション解析法を導出することを試みた。滑面に沿うニュートン流体乱流とは異なる乱流構造の時空間的な特徴を定量的に見積り、既存の乱流モデルを改良する手法を提案することになる。その結果として、粗面乱流の抵抗変調効果を予測することが可能になる。さらに、異なる特徴の粗面乱流に対しても利用できるように、一般的な乱流の概念に基づく解析法になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトの解析対象を拡大することを目指して、壁乱流の直接数値シミュレーションに定量的フェーズフィールド法を組み合わせた解析を実現することに取り組んだ。その結果、乱流状態で流動する液相が時々刻々と凝固する固液界面の再現性の特性を変更できた。さらに、再現できる凝固組織の形状に関する特徴が、これまでの解析結果とは異なり、新たな数値シミュレーションによる現象再現の成果になった。これまでの解析法によって予測されたメカニズムと同様の現象が再現されたことから、これまでに得られた成果の普遍性が証明された。ただし、これまでには見出せなかった現象要素の追加はなく、結果的に前年度の研究成果の意義を証明することになった。そして、解析効率の観点によって、必ずしも今回の改良が今後の研究の発展のために有効であるとは限らないことがわかった。 固液界面の一様溶融による壁乱流の変調に関する数値シミュレーションでは、乱流強度の変化の要因が単一のメカニズムによることはなく、複数の乱流構造の複合的な作用の結果であることがわかった。これらの結果として、溶融を伴う壁乱流などの複雑流動においては、ポジティブフィードバックによって、その複雑性を増加させることになった。本研究プロジェクトの対象である過冷却凝固に向けた傾向として、予測以上に複雑性が大きく、予測と制御の重要性が高いことが示された。 直接数値シミュレーションの結果から判明した乱流構造の特徴に基づいて、凝固組織を想定した粗面乱流のための予測方法を構築した。乱流境界層の中でバッファ層から対数層までの粗さ要素の影響が存在する場合を想定して、実際の壁乱流の変調を予測できることが確かめられた。ただし、これまでのところ、凝固のような粗さ要素の組成に時間変化を伴う粗面乱流に対する適用性とそのためのモデルの改良の可能性については、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
固液界面で凝固を伴う壁乱流の直接数値シミュレーションを実行するために、フェーズフィールド法を組み合わせた解析法を発展させる。具体的には、流れ場の条件が異なる場合に生成される凝固組織の特徴の違いとその影響による乱流変調を明らかにするために、数値シミュレーションを追加で実行して、その結果の流れ条件に対する依存性として系統立ててまとめる。幅広い条件における結果の整理と現象のメカニズム解明によって、乱流変調の予測方法の実現につなげる。さらに、固体内部の欠陥と残留応力を予測するために、流れの数値シミュレーションの結果に関するデータベースを構築する。その際に、研究協力者と協議して、過去の実験計測の結果に関するデータベースと比較して、解析方法の種類に依らない普遍的な現象の特性を見極めることも積極的に実行する。また、上記の凝固現象の場合と並行して、固液界面における一様溶融現象に関する壁乱流の数値シミュレーションの結果のデータベースを構築することも検討する。 凝固組織を伴う壁乱流の予測法を構築するために、粗面乱流と非ニュートン流体乱流のためのラージエディーシミュレーション解析法を発展させる。その成果の性能評価のために、直接数値シミュレーションの結果に関するデータベースを活用する。さらに、必要に応じて、研究協力者による実験計測の結果に関するデータベースと情報共有しつつ、解析法の改良を試みる。将来は、今後の分野の発展のために、データベースを一般に公開することも検討する。 これまでの解析結果をまとめて、一様溶融と過冷却凝固を伴う壁乱流の直接数値シミュレーションの結果に基づいて、新たに導出する乱流の予測方法の高精度化を実行する。同時に、数値シミュレーションに依らず、乱流現象に起因する材料力学的な特性の予測を実現する方法を見出すことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、国内における学会講演発表の機会が限られていたために、旅費の使用計画が変更された。そのため、研究の進展を優先して、その他の項目における計算機利用料との割り当てを変更した。その結果において、特別に研究計画の見直しは必要になっていない。次年度以降に、予測法と制御法に関する成果を国際会議等で発表するための経費を予定している。
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