研究課題/領域番号 |
20K04265
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
村田 滋 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (50174298)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 流体工学 / 流体計測 / 波動光学 / ディジタルホログラフィ / トルクコンバータ / 3次元計測 |
研究実績の概要 |
自動車用トルクコンバータの性能向上ための設計指針を得ることを最終目標とし,本研究課題では,トルクコンバータ内の3つの翼列間の3次元非定常流動を精度良く捉えることのできる実用的な計測手法を開発し,トルクコンバータの振動および騒音に関わる3つの翼列間の3次元非定常流動構造を精度良く実験解析することを目指している.2020年度は,より大きな渦構造を捉えるため,大判高精細撮像素子をもつカメラの使用を前提に,3次元非定常流動解析を実現する「多重露光ディジタルホログラム流速測定法」と「高空間分解能をもつ渦度評価法」を開発した. まず,「多重露光ディジタルホログラム流速測定法」については,多重露光ホログラムから可視化トレーサー粒子の3次元空間位置および変位量を測定する処理ソフトウェアを作成し,数値シミュレーションでその処理手順の実用性を確認した.また,基礎性能実験として,簡易水槽内部に水とトレーサー粒子を入れて旋回流を生成し,その流動を開発した多重露光ディジタルホログラフィにより計測することで,粒子の移動量および移動速度を算出した.また,応用実験では,流体機械の一つであるトルクコンバータのモデル装置を用いて装置内部流動を計測し多重露光となっている粒子像の記録に成功した. 次に,「高空間分解能をもつ渦度評価法」については,トレーサー粒子として偏光特性をもつ微小な延伸フィルムを用いる手法の実用性を検討した.直線偏光照明下では偏光特性をもつフィルムの回転が透過光強度変動周波数に関係することを理論式で示した.基礎性能試験として,ガラス板に付着させた延伸フィルムをステッピングモーターで回転させ,その観測結果から,導出した理論式に従った透過光強度変動が生じることを確かめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で最も優先的に推進すべき項目は「多重露光ディジタルホログラム流速測定法」を開発することにあり,研究対象であるトルクコンバータ内の3次元流動を捉えるためには,この測定法を実用化することが求められる.当初計画では2020年度は数値解析による性能評価と性能評価基礎試験を実施および観測システムの構築としていた.この測定法の実現には,①多重露光照明系とディジタルホログラム観測系の構築,②多重露光ホログラムからの数値再生像における多重露光粒子像の抽出処理プログラム作成,③多重露光粒子像の中心粒子の特定プログラム作成,④多重露光粒子像の奥行位置と奥行移動量の測定プログラム作成,が必要となり,2020年度は①と②を完了した.特に,①については,オーソドックスなインライン型とし,照明系には多重露光するためのオプティカルチョッパーを配置し,観測系にはリレーレンズを設置して300mmの深さを持つトルクコンバータモデルの内部流動を記録できるようにした.③,④が未だ開発の途上にあるが,2021年度前半で完了の見込である. 次に,「高空間分解能をもつ渦度評価法」については,偏光特性をもつ延伸フィルムの選定と,その微細化法を検討し,矩形断面チャネルフローの可視化に適用した.当初計画では2020年度は数値解析による性能評価としていたが,トレーサー粒子の回転を評価する測定原理の理論表現および性能評価数値解析は既に完了しており,その成果は2件の国内講演会おいて口頭発表している.微細な偏光特性フィルムは流れの可視化に利用しやすいフィルム径である0.05mmのものを大量に作製できるには至っておらず,2021年内には製作法を確立することが必要である. コロナ禍のため研究室の活動が一部制限され,また研究成果発表の機会もすべてオンラインとなり,当初の研究計画に比べ一部に研究の進捗状況は遅れを伴った.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,本研究課題で使用中のトルクコンバータモデル試験装置が設置されている建屋が機能改修されるため,2021年7月から2022年2月まで観測試験が実施できなくなり,当初の計画を次の通り変更して研究を進める. トルクコンバータモデル試験装置を用いた観測実験を2021年度は6月末まで実施し,既に構成したインライン型観測系を用いてホログラム撮影を行う.同時に,別の光学系を構成し,厚さ約5mmの光切断光を用いて生じさせたトレーサー粒子からの側方散乱光を観測するホログラム撮影を試みる.これは,インライン型観測系ではトルクコンバータモデルが奥行300mmと深いため,観測ホログラムには多重散乱によるノイズが多く含まれることが認められたため,この影響を低減させたホログラム観測を行うものである.インペラ出口半径,インペラ出口における回転軸方向速度,および作動流体の動粘性係数に基づくRe数は約6000と設定し,インペラ回転速度,インペラとタービンの回転速度比,運転状態変化に対応させた回転速度の時間変化を実験パラメータとする.7月以降は,観測した時系列ホログラム解析を行い,3次元空間におけるトルクコンバータ翼列間非定常流れの構造を明らかにする.なお,7月以降の時系列ホログラム解析の際に追加試験の必要が認められたケースについては,2022年度に継続して観測実験を実施するものとする. 一方,高空間分解能をもつ渦度評価法については,偏光特性をもつ延伸フィルムを微小トレーサーとして用いる手法の実用化を進め,0.05mm程度の延伸フィルム微細化法を開発する.これと並行して,微小トレーサー粒子の回転とレーザー照明の偏光角変化の関係を利用した新規計測手法の実用性を検討する. 研究発表は,国際シンポジウム1件,国内講演会2件を目処に予定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により学術講演会がすべてオンライン開催となったため,出張旅費が全く執行できず,\30,597の残額が生じた.2021年度は,トルクコンバータモデル試験の実験器具の増強に使用予定である.
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