研究課題/領域番号 |
20K04267
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 公祐 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (60455152)
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研究分担者 |
冨山 明男 神戸大学, 工学研究科, 教授 (30211402)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微細流路 / マイクロチャネル / 気泡 / 界面活性剤 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,界面活性剤を含む微細流路内テイラー流の特性を解明するとともに,テイラー流を利用した高効率界面活性剤分離技術の基盤を確立することを目的として,以下の要素研究を設定している.①単一微細流路内テイラー流実験による分離性能実証,②単一微細流路内テイラー流における吸脱着ダイナミクスの解明,③並列微細流路分離器開発,④並列微細流路分離器の分離効率評価モデル構築.初年度は当初計画に沿って要素研究①と②に関して研究を推進し,以下の成果を得た.分離器開発の重要基礎知見となる,界面活性剤の吸脱着特性が及ぼす単一流路テイラー流への影響を200マイクロン幅の流路を用いて検討した.界面活性剤には互いに大きく異なる吸脱着定数を有するTriton X-100と1-オクタノールを用いた.その結果,静的界面において同じ表面張力になるように調整した濃度で比較すると,気泡分裂(生成)周期と気泡長さには界面活性剤の種類(すなわち吸脱着特性)は大きな影響を及ぼさないことを明らかにした.このことから,いずれの界面活性剤に対しても,共通のテイラー流特性の知見に基づいて分離器設計をできる.また,下流側の気泡形状について既存の数値計算による報告を裏付ける特徴的な形状を観察した.気液分離部においては静止水中気泡の力学特性を正確に評価する必要があるが,低粘度系での気泡揚力に関する信頼できるモデルがなかった.そこで,気泡揚力モデルを構築し,国際学術雑誌にて論文発表した.②については,界面活性剤の吸着の時定数に比べて大幅に短い時間スケールで気泡生成が行われるにもかかわらず,界面活性剤が気泡分裂周期に影響を及ぼす理由がはっきりしていなかったが,T字気泡生成部上流側の界面状態を詳細に調べたところ,気液界面が上流まで長距離に渡って形成されており,そのため吸着が十分に進行している可能性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】に記載の通り,当初計画に沿って順調に必要な知見を取得,蓄積している.界面活性剤の吸脱着特性が及ぼす単一流路テイラー流への影響は分離器開発の重要基礎知見となるものであり,大きく異なる吸脱着定数を有する界面活性剤Triton X-100と1-オクタノールで,気泡生成周期と気泡長さに吸脱着特性が大きな影響を及ぼさないことを明らかにしたことは,次年度以降の分離器開発の進展において大きな意義がある.さらに,下流側の気泡形状についても界面活性剤による表面張力変化の力学的作用による興味深い影響を見出しており,Triron X-100および1-オクタノールとの比較による成果を学術雑誌論文として各1編発表するための準備を進めているところである.また,気液分離部設計のための流動把握に必要な静止水中気泡の揚力に関する新しいモデルを構築,学術雑誌にて発表したことは,本分離器開発のみならず,広範な気泡利用技術に貢献できる成果である.界面活性剤の吸着時定数に関する新たな知見も,次年度において並列流路分離器を開発していくための入口部設計に役立つ知見である.以上のように,初年度研究は当初計画に沿って進められており,次年度以降の展開において必要不可欠な重要知見を集積できていることから,順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
まず初年度に得られた単一流路テイラー流でのTriton X-100および1-オクタノールを用いた研究成果について近々に取り纏め,国際学術雑誌論文で公開するための準備を進める.これらの知見に基づいて,界面活性剤分離率に及ぼすマイクロチャネルの流路サイズや気液流量,および界面活性剤種類・濃度の影響についてマトリクス的に詳細を詰める.これにより,単一マイクロチャネルにおけるテイラー流特性に関する包括的理解を得る.並行して,高流量への対応と処理濃度向上を考える必要があるため,複数流路を有するデイバスを製作し,流量増加に対して期待する性能が発揮されるかを検証するとともに,気液分離槽とデバイス間で界面活性剤水溶液を循環させることにより,水純度の時間変化を明らかにする.本装置内に良質なテイラー流が形成されているかを把握するため,テイラー流一様性や気泡純度などを画像処理を駆使して評価し,流動特性と処理性能の関係を明らかにする.また必要に応じて気液混合部を改良する.本分離器ではマイクロチャネルだけでなく分離槽内の流れを把握しておくことも重要であるため,分離槽内気泡ダイナミクスについても引き続き検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により,主として国際・国内会議の延期・オンライン化に伴い次年度使用額とする必要が生じたことと,春の第一回緊急事態宣言下において実質的に実験が停止したことにより一部の計画組替えを余儀なくされたことで実験用試験部試作費の若干を繰越す必要が生じたため.実績および成果欄にて報告の通り,計画全体としては順調に進行しており,繰越分は用途を変えずに次年度使用することにより,効果的に研究を進められる計画である.
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