研究課題/領域番号 |
20K04269
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渡邉 聡 九州大学, 工学研究院, 教授 (50304738)
|
研究分担者 |
津田 伸一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00466244)
片山 雄介 九州大学, 工学研究院, 助教 (20778815)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | キャビテーション |
研究実績の概要 |
本研究では,実環境下における水力機械のキャビテーション性能の予測の高精度化を目指し,支配的実環境因子の一つである液中の溶存気体の効果に着目し,水力機械内部流れとの類似性に基づいて選定した基礎的形状の流動系を対象に,キャビテーション気泡の内圧の決定機構ならびに気液界面での物質伝達機構の実験的解明,さらには物理現象に根差した溶存気体効果の流体解析モデルの構築を行う. 2020年度は,キャビティ内圧およびキャビティ界面での物質伝達機構の定量化を目的に,液中気泡核数密度および溶存酸素量の監視のもと,高速度カメラを用いたキャビテーション様相の観察と高精度圧力センサを用いたキャビティの内圧の高精度計測に注力した.翼形を対象とした計測では,揚抗比の良好な低迎角,高揚力を得る中迎角を対象に実験を行い,実験した流速条件下においてはキャビティ内の不凝縮ガスの分圧が0.1~1kPaのオーダーであることを明らかにするとともに,主流圧力の増減に伴う翼表面圧のヒステリシスがキャビティの非定常挙動のヒステリシスと関係することを見出し,国内会議で公表するに至っている.また,二次元縮小拡大流路を対象とした実験では,溶存酸素量および主流流速をパラメータとして実験を行い,キャビティ内の不凝縮ガスの分圧が0.1~1kPaのオーダーであること,不凝縮ガス分圧の流速依存性は小さく溶存酸素量の増加に伴い微増することを見出し,国際会議ISROMAC2020で公表している. また,実験と並行して,溶存気体の輸送モデルの構築に着手した.既に液内における溶存空気の移流拡散部分のモデル構築を済ませており,既存のキャビテーションモデルと併せてオープンソースの流体解析ソルバーであるOpenFOAMに組み込んで,翼形を対象としたRANS解析を実施している.こちらの成果も,国内会議にて報告済みである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は年度内にキャビティの内圧の直接計測に加えて析出酸素分圧を感圧塗料により計測することを視野に入れていたが,導入を予定していたパワーLEDチップが製造中止により入手が不可能となったことと,新型コロナウイルスの影響で代替機の検討が困難であったことから,内圧計測のより一層の高精度化に注力することとし,上記の成果を得るに至っている.また,別のアプローチとして,試験部上下流における気泡群(気相の体積流量)を高速度カメラ画像より計測することで,本研究で明らかにしたい重要な示量であるキャビティ界面における物質伝達率の推定がある程度可能であることが見いだせた.キャビティ内の不凝縮ガスの組成についても,理論的検討で代替可能かどうか検討を開始している.一方,解析モデルの構築については,上述のように基本的なモデルの構築とソルバーへの実装を済ませ,より具体的なモデル検討・検証のための素地は確立できた. 以上より,本研究はおおむね順調に進んでいるものと判断される.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,キャビティの内圧の計測およびキャビティ界面での物質伝達率の推定,ならびに数値解析モデルの詳細検討・検証を行う. 翼形を対象とした実験では,既に実施済みの低迎角,中迎角条件では,キャビティ内の不凝縮ガス分圧が溶存酸素量から算出される平衡圧力よりもかなり低いことが分かった.そこで,今後は,はく離条件下である高迎角での計測を行う.過去に実施したキャビテーション様相の観察において,高迎角において液中溶存酸素量の影響が顕著に顕れることが分かっているため,キャビティ内の不凝縮ガス分圧にも液中溶存酸素量の影響が大きいことが期待される. 一方,二次元縮小拡大流路を対象とした実験では,溶存酸素量および主流流速をパラメータとして,キャビティの後流の計測の高精度化をはかる.具体的には,試験部上下流における気泡群を高速度カメラのより高解像度で計測することで,気相の体積流量をより定量的に明らかにし,キャビティ界面における物質伝達率の推定精度を向上する.そのうえで,必要に応じて,キャビティ内の酸素分圧の計測を実施する. 数値解析については,本研究で構築中の基礎モデルを用いて二次元縮小拡大流路を対象とした解析を行う.とくに,液中溶存気体の乱流拡散の効果に注目し,そのキャビティの内圧に対する感度を明らかにすることで,数値解析の予測精度向上の可能性を明らかにする,また,気液界面における物質伝達モデルの細部を検討し,実験結果を参照することで,モデルの予測精度の向上をはかる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は,年度内にキャビティ内の酸素分圧の計測に着手することを計画し,それに必要な光源の購入を予定していたが,製造停止により入手困難となったため見送った.また,成果発表のため出席予定であった国際会議がweb開催になるなど,旅費の支出が当初予定より激減した.以上により,次年度使用額が生じるに至った. なお,前述のとおり,当初とは別の実験アプローチによりキャビティ界面における物質伝達率を推定できる目途がある程度たったことから,次年度はこの高精度化をはかることとし,次年度予算と合わせて予算執行計画を修正することとした.
|