研究課題/領域番号 |
20K04271
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
脇本 辰郎 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10254385)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 界面活性剤 / 抵抗低減 / ミセル / せん断誘起構造 |
研究実績の概要 |
界面活性剤を添加した溶液の円管内流れでは,管内のせん断流れに起因してミセルが結合し,せん断誘起構造(Shear Induced Structure, 以後SISと表記)と呼ばれる巨大構造を形成する.このSISが乱れの発達を抑制して抵抗が低減すると考えられている.本研究では,SIS内に取り込まれると消光する蛍光物質を溶液に添加して,蛍光によるSIS検出を行うとともに,レーザードップラー流速計により,管軸方向流速を計測した.活性剤としてテトラトリメチルアンモニウムブロミド,対イオンとしてサリチル酸ナトリウムを用いた.この溶液で濃度を300ppmとした場合,摩擦レイノルズ数Reτ=260で壁付近のSISが消失し,乱流へと遷移して抵抗低減効果が消失することが判明しているので,Reτ=260の前後のReτで平均速度分布と乱れ強度を測定した. 活性剤無添加の乱流では,壁指標で表した乱れ強度u’+のピーク値がReτによらず約2.5となるのに対し,活性剤添加流れではReτ=155で1.6の値となり,その後Reτとともに増大してReτ=315で3.5の最大値を示した後,漸減してReτ≧650では2.5で一定となって活性剤無添加の値と同じになる.また,u’+がピークを取る壁からの距離は,活性剤無添加の場合,Reτに依らず壁指標でy+=10程度であるのに対し,添加した場合には,Reτ=155,200で50となり,その後Reτの増大により一様に減少して,Reτ≧650で10の一定値となって活性剤無添加時と同じになる. 一方で, Reτ=260の乱流遷移レイノルズ数でy+=20付近のSISが消失することが蛍光計測の結果から明らかとなった.以上の結果から,活性剤を添加した場合,y+=10~40のバッファー層に形成されるSISがこの付近の乱れの発生を低減することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度の進捗は遅れている状況である.2021年度も引き続き,新型コロナウィルスに関連した緊急事態措置が度々発出される他,学内でも感染者が発生し,研究活動が制限された.2021年度についても,前任の実験担当者と2021年度の担当者との間の引継ぎが十分できず,計測上のトラブルが解決されない期間が続いた.年度後期に入り,ある程度,活動の制限は緩和され,状況は改善した.このため,乱流遷移レイノルズ数の前後のレイノルズ数で平均速度分布や乱れ強度分布を測定する当初目標については達成できたが,蛍光強度の計測上のトラブルが十分解決されておらず,蛍光強度の時系列計測も未達成である.2022年度にこれらを行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
蛍光測定の測定体積は0.15mmを一辺とする立法体程度の体積であり,管壁から0.5mm程度の空間の蛍光強度の分布を本体計測できる能力がある.しかし現状,この0.5mm程度の空間の蛍光強度の測定の精度や再現性に問題がある.管壁付近のy+=10程度におけるSISの形成を確認するには,この空間分解能が必要である.蛍光の受光装置のトラバース部分の剛性や移動精度を精査し,この問題を解決する.また,本課題の当初計画通りに,蛍光をフォトセンサーで測定し,SISの形成/消失の時空間特性を明らかにする.2021年度に,フォトセンサーとしてフォトダイオードを用いて測定を行ったが,センサーの感度が不十分であった.センサーを感度の高いフォトマルチプライヤーとして計測を行う. なお,2022年度の4月末の現時点では,新型コロナウィルスの影響による研究活動の制限はかなり緩和されているが,今なお今後の推移が見通せない.また,現状相当な進捗の遅れもあることから,状況によって研究期間の延長も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
先述のように,新型コロナウィルスの影響等で実験担当者間の引継ぎが十分達成されず,研究の進捗に遅れがある.基本的な部分での計測上のトラブル解決に時間がかかり,蛍光強度の時系列測定などの新規の計測の機器の構築が十分行えていない.このため,経費の執行も抑制され,次年度使用額が生じた.2022年度は新規計測の機器構築を行い,予算を執行する計画である.
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