マイクロ・ナノスケールの空間で気体温度場に不均一がある場合、気体分子によって固体表面にもたらされる運動量にアンバランスが生じ、クヌッセン力と呼ばれる力が固体に働く。本研究では、クヌッセン力を二物体に働かせて相対運動を熱的に駆動する動力機構を構築することを目的とする。前年度までにノコギリ歯形状の微細な表面構造を持つ基板に働く接線方向のクヌッセン力について数値解析により明らかにしてきたが、本年度はその形状をノコギリ歯から変化させて、いろいろな形で得られるクヌッセン力を比較した。その結果、斜めに立てた薄い板を並べた表面形状を持つ場合に最も強い接線方向クヌッセン力が得られることを数値実験によって明らかにした。この成果は学術雑誌Micromachinesに掲載された。そして、クヌッセン力は物体表面に入射する一つ一つの分子が物体にもたらす運動量の集積であることから、これらの分子が物体表面に入射する前に、どこで何と衝突し、どのようなエネルギーや運動量を得て、それを物体表面にもたらすのかに着目し、クヌッセン力生成の理論を構築した。この理論による予測値は数値実験の結果と非常によく一致した。このことにより、この理論により、クヌッセン力生成のメカニズムを説明できるようになったと言える。この成果は学術雑誌Physics of Fluidsに掲載された。また、クヌッセン力を利用して、ピンセットのように物体をつかんで保持するような機構を提案し、Micromachinesに掲載された。さらに、これまでノコギリ歯形状の基板で現れるクヌッセン力は数値計算においてのみ確認されてきたが、本研究で構築した実験系においてクヌッセン力生成を再現し、その強さを計測することに成功した。今後、この計測についてさらに研究を進め論文にまとめる。
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