研究課題/領域番号 |
20K04282
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
半場 藤弘 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20251473)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 乱流モデル / 渦拡散率 / 非局所性 |
研究実績の概要 |
非一様乱流の数値シミュレーションで広く用いられる渦拡散近似に着目し、平均スカラー勾配が乱流スカラーフラックスに及ぼす空間的時間的な非局所性効果を物理的に解明し、非局所渦拡散率の関数形を提案するため、本年度は以下の研究を行った。 1. フィルター平均速度を用いた乱流統計理論の改良 非局所渦拡散率の関数形を理論的に導出するには、非一様乱流の2スケール理論を適用する必要がある。この理論を用いた既往の研究では、乱流が局所的に一様であることを仮定してフーリエ変換を行い、波数空間における渦拡散率の表式を得た。フーリエ変換を用いて速度を各波数成分に分解し、各波数における乱流の応答を扱うことによって渦拡散率の表式を求めることができた。しかし現実の乱流は非一様であるため、厳密にはフーリエ変換を課すことができない。そこで本研究では、フーリエ変換ではなくフィルター平均速度を用いて速度をスケール分解し、正確な渦拡散率を求めることを試みる。新しいフィルター平均速度を導入することにより、非一様乱流のスケール空間の乱流エネルギー密度の新しい定義を提案した。第1段階として一様等方乱流の直接数値シミュレーションデータを用い、乱流エネルギーと2点速度相関の分布を考察し、スケールに対する依存性を調べた。特に2点速度相関は非局所渦拡散率に直結する統計量であり、重要な知見が得られた。 2. ヘリシティーやスケール相似項を用いた渦粘性モデルの改良 乱流のレイノルズ応力に対する渦粘性率は、スカラーフラックスに対する渦拡散率と同様なふるまいをすると考えられる。渦粘性率を改良するため、乱流ヘリシティーやスケール相似項を用いたモデルが提案されている。本研究では、特に乱流ヘリシティーが渦粘性率や渦拡散率に及ぼす効果に着目し、統計理論やチャネル乱流の数値計算を用いて乱流ヘリシティーの生成や輸送の物理機構を考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は非局所渦拡散率の関数形を提案するために、フィルター平均速度を用いた乱流統計理論の改良を試みた。その基礎としてフィルター平均速度を用いて速度をスケール分解し、非一様乱流のスケール空間におけるエネルギー密度や2点速度相関の新しい定義を提案した。 乱流の統計理論では、速度場の発展方程式を元に理論解析を進める。一様等方乱流ではフーリエ変換を施して速度を各波数成分に分解するが、物理空間では流れ場全体を一度に扱うことになる。しかし非一様乱流では統計的性質が場所によって異なるので、速度をフーリエ変換することは望ましくない。そこで本研究ではフィルター平均速度を用いて、スケール分解と物理空間での局所的な扱いを両立させることをめざした。 従来のガウス型のフィルターも含めて3種類のフィルター平均速度を導入することにより、速度のスケール分解だけでなく、統計理論で重要となる乱流エネルギーや2点速度相関も適切にスケール分解できるように定式化を改良した。フィルター平均と拡散方程式の対応を示すとともに、乱流エネルギーの一様成分と非一様成分を定義した。この定式化の妥当性を見るために、第1段階として一様等方乱流の直接数値計算データを用い、乱流エネルギーと2点速度相関の分布を考察した。 2点速度相関は非局所渦拡散率と強い関連があり本研究の重要な統計量である。2点速度相関の分布をそのままで関数形を用いて近似するより、2点速度相関をスケール分解し、それぞれのスケール成分について近似を行い積分して組み合わせる方が、より正確な近似ができると期待される。本研究の数値解析により、そのための重要な知見を得ることができた。 当初の研究実施計画と比べ、数値計算を用いた非局所渦拡散率の数値的評価はやや遅れているが、渦拡散率の理論的な導出のための定式化は進んでおり、現在までの研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度に導出したフィルター平均速度による非一様乱流のスケール分解の方法をさらに検証するため、チャネル乱流の直数値計算のデータを用いて、スケール空間での乱流エネルギー密度の分布と、エネルギーの一様・非一様成分の空間分布を考察する。さらに統計理論の改良を進め、2スケール統計理論と同様に速度場の発展方程式をスケール分解し、各スケールにおけるグリーン関数を導入することにより、非局所渦拡散率を理論的に導出する。 また、数値計算を用いた非局所渦拡散率の解析も同時にすすめる。最も基本的な乱流場として定常な一様等方乱流の直接数値計算を行い、速度場とともにグリーン関数の時間発展も同時に求める。速度場とグリーン関数の相関を統計平均によって求めることにより、一様等方な非局所的渦拡散率の空間的時間的分布を数値的に求める。また、同じ乱流場に対し一定勾配や周期的な空間分布を持つ平均スカラー場を与えて乱流スカラーフラックスを求め、数値的に求めた非局所渦拡散率が確かにフラックスを適切に再現することを示し実証する。そして上記で求めた理論的な渦拡散率と比較し、より適切な非局所渦拡散率の関数形を求める。 さらに非一様乱流のテストケースとしてチャネル乱流の直接数値計算を行い、グリーン関数を求め、非局所的な渦拡散率の分布を数値的に求める。以前の研究で求めた、壁垂直方向の非局所性だけでなく、主流方向とスパン方向および時間に関する非局所性についても求める。そして本研究で提案する渦拡散率の関数形が非等方非一様効果でどのように修正されるかを詳しく考察する。
|