2022年度は、窒化チタン(TiN)表層に形成した酸化チタン系触媒における反応機構の解明と高性能化に注力した。 簡易燃焼法を利用し、複数の異種金属をチタンサイトに置換した。また新たな窒素源を利用し、合成温度等を性能に対して最適化した。X線回折法、ラマン分光法、エネルギー分散型X線分光法、X線光電子分光法、大気中光電子収量分光法と電気化学的評価方法を利用し、以下の知見を得た。 ・仕事関数により性能が整理され、5.0 eV付近で特に触媒の耐久性を決定する反応電子数が最大化する。 ・仕事関数は本触媒のフェルミ準位と真空準位とのエネルギー差であり、触媒から電子を取り出す最低のエネルギーに相当する。仕事関数の低下により、吸着した酸素分子へ電子を供与するエネルギー障壁が下がり反応電子数が増加することが示唆された。一方、最適値より仕事関数が下がると反応中間体HO2が強く吸着し、O―O結合が切れずに過酸化水素が生成され反応電子数が低下したと考えられる。
酸素分子から過酸化水素を生成する二電子反応(O2 + 2H+ + 2e- → H2O2)が進行すると、過酸化水素やそのラジカルが電解質成分を分解し、性能低下要因となることが知られている。本研究では異種金属を置換導入することによりTiNの仕事関数を制御し、酸素分子が直接水になる四電子反応(O2 + 4H+ + 4e- → H2O)に対する選択性が向上することを初めて見出した。燃料電池実用化推進協議会が定めた、自動車における起動と停止を模擬したプロトコルによる加速劣化試験結果からも、耐久性が向上することを確認できた。
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