液体の熱伝導率を決定している分子スケールのメカニズムを分子間・分子内の力学的エネルギーの伝搬に求め、このエネルギー伝搬を分子動力学シミュレーションにより定量的に観測する独自の解析法を用いて、様々な液体中で生じている分子間・分子内エネルギー伝搬の大きさと発生密度(頻度)を網羅的に調べるのが本研究の計画である。液体種として、比較的単純な分子によるものから複雑なもの、実用上重要なものにデータ蓄積を進め、さらにパラフィンなどPCM(相変化物質)として重要なソフトマターまでを対象とする。正確な物性値を得るための計算法の開発や分子間モデルの吟味も研究対象である。得られた分子間・分子内エネルギー伝搬の定量データを特徴的な原子団(官能基)ごとに分類し、加算性に注意しながら整理することにより、液体分子の原子団構成と液体に発現する熱伝導率との間に機序を見出す。物性値が既知の物質についてこの手法を確立し、未知の物質の熱伝導率予測や所望の熱伝導率をもつ液体の分子設計を可能にするデータ基盤を確立することを目的とする。 本年度は、既に古典的モデルによる液体系の解析を終えているアンモニアを対象として、さらに固液界面や反応系に適用できるモデルを構築するため、反応分子動力学モデルをReaxFFモデルのチューニングにより確立した。また、パラフィンの解析をさらに実用的なPCMに発展させるため、エリスリトールを始めとする糖アルコールの解析を進めた。
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