研究課題/領域番号 |
20K04310
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上松 天 大阪大学, 工学研究科, 招へい研究員 (10867774)
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研究分担者 |
西橋 勉 大阪大学, 工学研究科, 招へい研究員 (00517469) [辞退]
木村 正 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90240845)
瀧内 剛 大阪大学, 医学系研究科, 特任准教授(常勤) (40733358)
佐治 史惠 大阪大学, 医学部附属病院, 技術職員 (40600987)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 凍結乾燥 / 氷晶径 / 精子 |
研究実績の概要 |
令和2年度には、微噴凍結乾燥装置で凍結乾燥したヒト精子は全て運動能を失うことが分かり、噴霧、凍結、乾燥という段階的な調査により、凍結時点で運動能を完全に失うと判明した。さらに、凍結後のミトコンドリア活性消失も判明した。令和3年度は、噴霧および凍結による精子の損傷をより詳細に調査した。 まず、孔径50, 100, 200μmのノズルについて、噴霧による精子の運動率変化を調査した。その結果、50μmノズルでは運動率の有意な低下が見られ、100, 200μmノズルでは見られなかった。また、噴霧した精子を樹脂包埋して超薄切し、透過電子顕微鏡で観察したところ、50μmノズルでは精子の先体の崩壊が見られた。精子の長さは60μm程度のため、50μmノズルでは噴霧時にノズルと接触し精子が損傷すると考えられる。 次に、上記ノズルを使用して真空中に噴霧して凍結させた精子の運動率を調査したところ、全てのノズルで運動率は0となった。また、凍結後の細胞膜の損傷調査にあたり、透過電子顕微鏡では細胞膜の損傷傾向が見られたが、精子の観察個数が不十分とも考えられた。そこでThermo Fischer社のLIVE/DEAD Sperm Viability Kitを用いて調査した結果、全てのノズルで凍結後の全精子に細胞膜の損傷が見られた。従来の精子凍結保存法である液体窒素浸漬ではこのような結果は見られないため、真空中への噴霧および凍結という過程が精子に大きな損傷を与えると判明した。 現状の微噴凍結乾燥では、急速凍結だが到達温度は-20~-40℃であり、凍結粒子のラマン分光測定ではアモルファス氷特有のピークシフトが見られないことからも、氷晶によって精子が損傷すると考えられる。今後は噴霧した液滴を液体窒素で冷却し、氷晶を形成させずに凍結粒子を作製して、その後真空中で昇華させることで、精子の損傷を抑えた凍結乾燥を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微噴結乾燥装置における氷晶径の制御および精子の凍結乾燥保存を目指して、噴霧および凍結の段階で精子が運動能を失う原因を調査した。その結果、噴霧では精子の運動率の低下や先体の崩壊が起きることが判明し、さらに凍結では細胞膜の損傷やミトコンドリア活性の消失が起きることが判明した。凍結粒子のラマン分光測定ではアモルファス氷特有のピークシフトが見られないことからも、凍結時の氷晶形成によって精子が損傷を受けていると考えられるが、蒸発熱による液滴の自己冷却という現状の凍結原理では、氷晶形成しない温度まで急速冷却することは難しい。 以上から、真空中への噴霧および凍結という現状の微噴凍結乾燥では、氷晶径を制御して凍結時の精子の損傷を抑えることができないと判断した。そこで、噴霧した液滴を液体窒素で急速冷却することにより、氷晶を形成させずに凍結粒子を作製して、その後真空中で昇華乾燥させるという方針に変更する。すでに噴霧凍結用の実験機器は用意しており、令和4年度はまず新しい噴霧凍結法による精子の損傷を調査する。それにより凍結時の精子の損傷を抑えることができれば、凍結粒子を真空中で昇華させ、乾燥後の精子の損傷を調査する。 令和3年度は噴霧および凍結による精子の損傷を詳細に調査した結果、方針変更を決定したため、未だ凍結乾燥後の精子の運動能維持は確認できておらず当初計画よりはやや遅れているが、引き続き運動能を維持した精子の凍結乾燥保存を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
まず、液体窒素による液滴の急速冷却によって凍結した精子の損傷を調査する。具体的には、運動率や細胞膜の損傷、ミトコンドリア活性を調査する。この新しい噴霧凍結法により精子の損傷を抑えることができれば、凍結粒子を真空中で昇華させ、乾燥後の精子の損傷を調査する。さらに、凍結乾燥用の保護剤や乾燥温度の最適化を図ることで、最終的に運動能を維持した精子の凍結乾燥保存を目指す。 これまでに得られた知見は、まずは2022年6月の学会にて公表し、その後研究報告として学会誌に投稿予定である。そして研究期間の終了までに新しく得られた知見は、専門雑誌に論文投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費や旅費が当初計画より抑えられたため、残額が生じた。この残額は令和4年度分の助成金と合わせ、研究に必要な消耗品購入や精子の観察サンプルの作製費、研究成果を発表する学会参加費や論文投稿費として使用する予定である。
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