研究課題/領域番号 |
20K04313
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
安永 健 佐賀大学, 海洋エネルギー研究センター, 助教 (50758076)
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研究分担者 |
足立 高弘 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (60344769)
松田 吉隆 佐賀大学, 海洋エネルギー研究センター, 助教 (00578429)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低エンタルピー熱 / 有限時間の熱力学 / コンストラクタル法則 / 低熱源間温度差発電 / 海洋温度差発電 / 標準熱効 / エクセルギー / エントロピー生成最小化 |
研究実績の概要 |
燃料が有する約50%以上のエネルギーが、工場やエンジン 等から”熱”として排出される。この排熱は150℃以下の温度で、未利用のままであり、今後のエネルギー高効率化のためにはこれらの排熱エネルギーを有効に利活用することが極めて重要である。また、地熱バイナリ―、温泉水、海洋温度差 等の自然エネルギーは、熱源間の温度差が極めて小さく、かつ入手可能な流量が制約されており、十分に活用されていない。本研究では、それらの低熱源間温度差を利用した発電システムの新たな基礎理論を確立し、その活用にて発電システムを高効率化かつ最適化を行うことを目指した基礎研究である。 従来の熱力学に時間などの有限性を考慮したFinite-time Thermodynamics(FTT)を基礎に、低熱源間温度差発電システムの蒸気動力の熱力学的検証をさらに発展させ、低熱源間温度差の発電システム特有の熱機関内・外の不可逆損失を考慮し、新たな熱力学的基礎モデルを構築することを第一の研究目的としている。さらに同モデルを駆使し、物体形状と熱・流動抵抗の原理を示すコンストラクタル法則に基づき、発電システム内の熱源の最適流量制御および熱交換器の伝熱面形状の最適化を目指した基盤を確立することを第二の研究目的としている。 2020年度は、研究代表者が熱機関内の各構成機器の不可逆損失と各構成機器の性能との関係のFTTモデルを新たに構築し、(1)パラメータ解析にて構成機器と熱機関内の不可逆損失の関係、(2)各構成機器の性能と不可逆損失係数の関係をそれぞれ明らかにし、30 kWおよび15 kWの海洋温度差発電実験装置の試験結果との比較を行った。実験によって得られた熱源流量と出力の関係を熱力学モデルと比較し、本理論によって熱機関の発電出力と正味出力を精度良く予測でき、最大正味出力となる温水流量条件を容易に推測できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、従来の熱力学に時間などの有限性を考慮したFinite-time Thermodynamics(FTT)を基礎に、低熱源間温度差発電システムの蒸気動力の熱力学的検証をさらに発展させ、低熱源間温度差の発電システム特有の熱機関内・外の不可逆損失を考慮し、新たな熱力学的基礎モデルを構築することを第一の研究目的としている。さらに同モデルを駆使し、物体形状と熱・流動抵抗の原理を示すコンストラクタル法則に基づき、発電システム内の熱源の最適流量制御および熱交換器の伝熱面形状の最適化を目指した基盤を確立することを第二の研究目的としている。 2020年度は、研究代表者が熱機関内の各構成機器の不可逆損失と各構成機器の性能との関係のFTTモデルを新たに構築し、(1)パラメータ解析にて構成機器と熱機関内の不可逆損失の関係、(2)各構成機器の性能と不可逆損失係数の関係をそれぞれ明らかにし、30 kWおよび15 kWの海洋温度差発電実験装置の試験結果との比較を行った。 FTTモデルの構築では、タービン効率、作動流体ポンプ効率、作動流体の種類が熱機関の発電出力に与える影響をパラメータ解析で算出し、理論上の最大仕事との比較を行うことで、FTTモデル内の熱機関内部の不可逆損失係数を算出した。また、FTTモデルを用いて、熱源流量と発電出力の関係を定量的に示した。 FTTモデルと実験の比較では、実験装置で用いている熱交換器の伝熱性能および圧力損失と熱源流量の関係を明らかにし、熱機関の理論上の最大仕事を用いて、各実験条件での熱機関の総括不可逆損失係数φを算出した。構築したFTTモデル内では、このφを定数と仮定し、実験との比較を行った。その結果、実験結果とFTTモデルは精度良く一致した。このFTTモデルを用いることで、実験装置の各熱源温度で正味出力を最大とする最適運転流量を容易に算出することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、低熱源間温度差の発電システム特有の熱機関内・外の不可逆損失を考慮し、新たな熱力学的基礎モデルを構築することを第一の研究目的としており、2020年度にこのモデルを確立した。さらに同モデルを駆使し、物体形状と熱・流動抵抗の原理を示すコンストラクタル法則に基づき、発電システム内の熱源の最適流量制御および熱交換器の伝熱面形状の最適化を目指した基盤を確立することが第二の研究目的である。 2020年度では、新たなFTTモデルの基礎理論構築を行い、実験による検証を行った。今後は、確立したFTTモデルを用いて、(1)発電装置の発電量を最大にするための熱源流量の制御、(2)熱交換器の伝熱面形状の最適化を行う。2021年度では、この2項目の基礎理論を確立することを目標とする。 (1)発電装置の発電量を最大にするための熱源流量の制御では、構成機器の単体性能を不可逆損失係数とし、作動流体流量および熱源流量を制御し、正味出力を最大化する制御方法のモデル化および実験による検証を行う。特に確立したFTTモデル内には各状態での作動流体流量の最適流量が表現されていないため、制御可能な作動流体流量の適切内決定方法を検討する予定である。本研究は、研究分担者の松田吉隆先生と共同で実施する。 (2)熱交換器の伝熱面形状の最適化では、FTTモデルをコンストラクタル法則に基づいた熱交換器の性能評価指標に変換し、その性能評価指標を基に伝熱面形状の最適化を行う。伝熱面形状の最適化は、プレート式熱交換器の伝熱面を2次元の凹凸形状とし、各形状での熱・流体流れの数値計算(CFD)によって実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、国内・国際学会が中止またはオンラインでの実施となり、計画していた旅費および学会費の支出がなくなった。また、研究分担者との打ち合わせもオンラインで対応せざるを得なくなり、旅費の支出がなくなった。これらの理由により次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、更に研究を加速するための書籍およびPC部品の購入費用および研究成果を論文として発表するために必要な投稿費などに補填する予定である。
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