研究課題/領域番号 |
20K04314
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
光武 雄一 佐賀大学, 海洋エネルギー研究センター, 教授 (20253586)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 衝突噴流 / 非定常遷移沸騰伝熱 / 高温面のぬれ / ウェッティングフロント / 最大熱流束 / 材料製造プロセス / クエンチ / 限界熱流束 |
研究実績の概要 |
沸点を遥かに超える高温面の非定常冷却では,固液の安定な接触が生じない膜沸騰と呼ばれる蒸気膜を介した伝熱モードから高温面上での局所的・間欠的な固液接触に伴うぬれ開始によって遷移沸騰伝熱モードへ移行する.高温面のぬれ回復によって,冷却能力(熱伝達率)が増大し,冷却速度の増加,つまりクエンチが開始する.材料製造プロセスをはじめ沸騰伝熱を用いた高温面非定常冷却で冷却温度履歴制御が必要な場合,クエンチ開始の予測が非常に重要となる.しかし,クエンチ開始のトリガーとなるぬれ開始は,固体側の非定常熱伝導とその表面での遷移沸騰が連成した非定常性が強い現象であり,その予測モデルの確立は材料製造プロセスなどの工業的応用の重要性の観点から必要とされている. 本研究では高温面の衝突噴流による非定常沸騰冷却伝熱の予測モデルの確立と材料製造プロセスへの展開を目的として,高温面上でのぬれ開始を支配する遷移沸騰伝熱モデル開発と実験による検証を実施する.本年度は,冷却中高温面上に形成される噴流衝突点から高温面上に沿って拡がる液膜流先端部の不安定なぬれと乾きを繰り返すぬれ先端部のWetting Front(W.F.)と呼ばれる遷移沸騰領域の非定常伝熱過程の伝熱計測を実施した.主な同時に高速度ビデオ撮影に基づきW.F.半径位置の時間進展を解析した. 本年度得られた主な成果は,以下の通りである. 1)遷移沸騰領域で生じる固液接触現象はノズルから噴出された円形噴流自由界面に形成されるRayleigh不安定波長に同期した擾乱周期と強い相関を示し,数kHzの表面温度変動とほぼ一致することを確認. 2)W.F.内側の核沸騰域で記録された局所の最大熱流束は,観察で測定した沸騰長を適用した定常等熱流束条件の衝突噴流沸騰の限界熱流束の相関式と良く一致することが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が目指す衝突噴流による高温面の非定常冷却モデル開発では,固体側の非定常熱伝導モデルと冷却面上の対流伝熱との連成計算に必要な境界条件の定式化が重要なポイントとなる.特に,高温面で共存する単相熱伝達,核沸騰,遷移沸騰の境界位置と各伝熱モードの熱伝達率(或いは表面熱流束,表面温度)を規定する必要があり,さらにぬれ面先端のW.F.近傍での早い時間モードを持つ不安定な固液直接接触伝熱を取り扱う必要がある. 本年度の研究成果によって,各伝熱モードの境界位置と伝熱素過程について重要な知見が得られており,次年度での高温面非定常熱伝導計算モデルに組み込む伝熱境界条件の構築の見通しが得られ,順調に進捗していると判断した. 1)冷却中の高温面上で共存する各伝熱モードの境界位置 単相対流伝熱と核沸騰域の境界位置,すなわち沸騰開始点を規定する局所壁面過熱度の相関関係を得た.さらに,核沸騰域の長さ,いわゆる沸騰長について,定常状態の限界熱流束の相関式と非定常表面熱流束より陰関数を解いて規定する方法を提案した.前進と後退を繰り返す遷移沸騰域の先端W.F.については,噴流自由界面の不安定波長に基づく擾乱周期の1波長の進行で規定できることが分かった. 2)安定なぬれ面上とW.F.先端での伝熱について 安定なぬれ面上での熱伝達については,従前の定常状態に対する単相熱伝達相関式およびプール核沸騰熱伝達の整理式を非定常不均一加熱条件に対しても十分な精度で局所的に適用できることを確認した.一方,W.F.の不安定な固液接触伝熱については,流動場の擾乱周波数と同期した固液接触周期に基づく非定常熱伝導の解析的に解いて,固体側の準定常解析に適用できるよう1周期中の平均熱流束の評価式を求めた.これにより,W.F.の早い時間モードを伝熱過程を平均値として評価することにより,非定常解析を準定常状態に対して実行できるようにした.
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今後の研究の推進方策 |
今後も申請書の研究計画通り研究を推進していく.具体的には,21年度の研究成果に基づき噴流冷却中の高温面上の伝熱境界条件と固体側の軸対称2次元非定常熱伝導の連成解析マルチスケールモデルのプログラムを開発する.モデル化のポイントは,安定なれ領域先端のW.F.近傍での数kHzで繰り返される不安定なぬれ状態での冷却を噴流自由界面で発生する擾乱に伴う間欠的な固液接触の非定常熱伝導解析解に基づく平均熱流束で与えることである.短い時間スケールで生じるW.F.での伝熱過程を安定なぬれ面上での連成熱伝達についての準定常解析からぬれ領域を規定するW.F.位置の時間拡大と高温面上の熱流束分布を推定する.モデルによる予測結果を実験で得られたW.F.位置の時間挙動および局所の表面温度・表面熱流束履歴と比較することにより,その妥当性を検証する.モデル化の方針は,実験定数などを持ち込まずに噴流温度・速度,高温面初期温度,固液の熱物性値が高温面上でのW.F.の移動速度や冷却速度に及ぼす影響を関連付けるものとするが,十分な精度が得られない場合は,実験相関式を導入して予測精度を改善する.併せて噴流冷却中に高温面上でのぬれ回復の2つのパターン,1)冷却開始後噴流よどみ点での安定なぬれ状態を回復し,よどみ点から時間と伴にぬれ面が拡大するパターン,2)冷却開始後よどみ点での安定なぬれ回復を開始するまで時間遅れの後,ぬれ面が拡大するパターンの内,後者について表面温度センサーを用いてよどみ点で安定なぬれ状態を回復するときの固液接触界面温度の計測のための実験を実施する.2)のパターンは,高温面初期温度が自発核生成温度より十分高い場合に顕著であり,噴流直下での自発核生成の上限温度と関係すると考えられている.800℃以上となる材料製造プロセスでの冷却でのクエンチ開始に重要な役割を果たすため,自発核生成理論に基づく検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型感染症拡大に伴う学内での実験の実施が十分行えず物品費の消耗品の執行を行えなかったこと,参加発表を予定していた国際学会が延期となり,出張旅費の執行ができなかったため,次年度使用額が発生しました.
22年度に開催が延期されたスコットランドでの国際沸騰伝熱会議については,成果発表のため参加を予定している.また,物品費については,本年度遅れを取り戻すための実験を実施するために使用する予定である.
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