研究課題/領域番号 |
20K04315
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
河南 治 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (20382260)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 沸騰熱伝達 / 非共溶性混合媒体 / 強制対流沸騰 / プール沸騰 |
研究実績の概要 |
様々な冷却対象・冷却条件に対応できる媒体として、高密度低沸点媒体と低密度高沸点媒体を適切な混合割合で組み合わせた非共溶性混合媒体による沸騰冷却が新たに提案され始めている。これは、限界熱流束の飛躍的増大のみならず、沸騰開始時の伝熱面温度のヒステリシスの回避、大気圧作動下での冷却面温度の低減などを液体混合のみで実現できうる画期的な方法で、従来の冷却システムの熱媒体に対する概念を大きく変えるものである。 しかし、実際に限界熱流束の増大について報告例はプール沸騰条件での1件であり、その詳細はほとんど不明であると言える。そこで、非共溶性混合媒体の限界熱流束を実際に把握するため、まずは流速0、すなわちプール沸騰状態にて実験を実施した。 実験は、高密度低沸点媒体(水)の液高さをパラメータとして行った。また、実験はガラス製の沸騰容器にて、底面の直径100mmの銅円板の中心25mmを加熱面とした。低密度高沸点媒体には水を用いた。 非共溶性混合媒体が伝熱面温度で切り替わる沸騰冷媒遷移が生じる高密度低沸点媒体の液高さにおいて、水単成分時の限界熱流束(約1.)を超える限界熱流束を記録した。しかし、非共溶性混合媒体の平衡温度から理論的に期待できる限界熱流束3.8MW/m2には及ばないことが明らかになった。沸騰様相を観測した結果、高熱流束時における液攪拌によって、伝熱面周囲に存在する高密度低沸点媒体が伝熱面に侵入することで伝熱面上に急激なドライパッチが発生することに起因することがわかった。よって、今後、如何に高密度低沸点媒体が伝熱面に侵入することを防ぐか、をシステム的に検討する必要があり、この課題は強制対流沸騰でも同様と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、非共溶性混合媒体の強制対流沸騰における限界熱流束に関するものであるが、そのベースとして流速0のプール沸騰状態での限界熱流束束について検証した。当初はプール沸騰状態での検証は研究計画には短期間で終了すると考えていたが、非共溶性混合媒体の限界熱流束について先行研究ではほとんど報告例がないために、詳細に検証する必要があると考えたためである。 その結果、沸騰冷媒遷移が生じた後、つまり、高密度低沸点媒体から低密度高沸点媒体に沸騰媒体が切り替わった後、非常に高い熱流束まで加熱すると、伝熱面周囲に存在する高密度低沸点媒体によって伝熱面からの熱伝達が阻害されることがわかった。 これは、強制対流沸騰の限界熱流束を考える上で非常に重要な新しい知見であり、初年度である今年度に実施したことは大変有用であった。 よって当初の研究スケジュールからは少し遅れがあるが、非共溶性混合媒体の沸騰現象を理解する上で有用な進捗であると言える。また、コロナ禍での研究活動が制限されたことも大きく影響していることは言うまでもない。
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今後の研究の推進方策 |
非共溶性混合媒体の限界熱流束について、プール沸騰時の基本的な現象を初めて検証できたことは非常に大きな成果であった。今後は、強制対流沸騰実験に移行するが、得られた知見をベースに試験部設計を再考している。つまり、主に高密度低沸点媒体のみが流れる伝熱面横の副流路の流路深さ(もしくは体積)を、伝熱面温度に応じて増減できるように設計すればよい。具体的には、副流路にバッファスペースを設置し、伝熱面温度が高密度低沸点媒体の沸点よりも高温になった時にバッファスペースに高密度低沸点媒体の一部が流れ込むように設定する。 この変更によって、高熱流束時には副流路を流れる高密度低沸点媒体の液高さが伝熱面よりも低い位置に移動するため、こう熱流束時に高密度低沸点媒体が伝熱面に流れ込むことを防止することができる。 以上のように、今後の設計方針が明確になったので、強力に研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で学会や情報収集のための打ち合わせなどが中止になったり、web会議に変更したことで、予定していた旅費の支出がなくなったこと、実験活動の制限や基礎実験の実施によって、消耗品などの支出が減少した。 よって、次年度に研究を強力に推進するため、研究費を繰越し、次年度使用額とした。
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