本研究では,乱れを伴う流動伝熱場における瞬時局所熱流束を隣接多点薄膜センサで計測し,壁面近傍の移流速度を熱流束信号から抽出する技術を開発し,導出される移流速度の物理的意味と熱伝達の関係を明らかにする。この技術は,エネルギー機器内における流動・熱伝達特性を壁面設置センサで計測可能とし,流動・熱伝達特性の理解の深化と伝熱促進や抑制技術に資する情報を提供するものである。 コロナ禍で1年研究機関を延長した最終年度では,MEMS隣接多点センサとして,直径0.7mmから1.4mmの円内に4点,5点,7点のセンサを製作し,提案手法の検討を実施した。具体的には,同時計測された隣接点の表面温度変動から3次元非定常熱伝導解析で計測点の熱流束を算出し,隣接点熱流束の相互相関を求めて遅れ時間を算出し,多点センサ上を並進流体塊が移動するモデルを適用し,三角形配置の3点,ひし形配置の4点の遅れ時間から沿面速度2成分を算出した。さらに,4点センサでは5か所,5点センサでは9カ所,7点センサでは24カ所の沿面速度が計測点から選んだ3角形,4角形の組から算出されるため,得られた速度を相互に比較し,大きく外れるものを除外し,一貫した情報のみを採用することで,推定速度のばらつきを抑える工夫をした。 上記の手法により,隣接多点の熱流束変動情報から壁面近傍移流速度を算出することは可能となったが,結果の正当性の検証が未実施となった。また,多点計測から得られる冗長な速度データから一貫性のあるものを選ぶ作業は,速度ベクトルの標準偏差に閾値を設定して行うが,閾値のレベルと移流速度推定数が相反するため,精度を上げると熱流束変動データ列から得られる移流速度情報量が低下することとなり,良いバランスを見つけることも課題となった。
|