研究課題/領域番号 |
20K04322
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
西野 耕一 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (90192690)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 表面張力流 / 対流 / 混合 / 液膜 / 能動制御 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、薄液膜を対象として、気液界面の局所温度を走査型レーザ照射によって制御することによって、薄液膜に発生する温度差駆動の表面張力流を操作し、液膜内の対流と混合を能動制御する方法論を構築することである。本年度(令和2年度)の具体的な研究成果は次の通りである。 ①薄液膜のレーザスポット加熱による表面張力流発生のメカニズムの把握:炭酸ガスレーザ(出力0.3~0.9W、波長10.6um、ビーム径約2.5mm)によるスポット加熱を行い、液膜に発生する表面張力流の様子を実験的に調べた。作動流体はシリコーンオイル(2cStと5cSt)で、液膜厚さを2.0~4.0mmで変化させた。PIVシステムを用いて、液膜内に生じる温度差駆動の表面張力対流の時間発展を測定し、基礎データを蓄積した。得られた知見は、(a)スポット加熱で生じる表面張力流の時間発展の再現性、(b)炭酸ガスレーザの出力と表面流速の関係、(c)作動流体の動粘性係数と表面流速の関係、(d)液膜厚さと表面流速の関係などである。 ②スポット加熱による表面張力流の時間発展の定式化と数値解析:表面張力流の時間発展を定式化し、数値解析のためのモデル化を行った。軸対称な対流場を仮定した。炭酸ガスレーザビームの強度分布(ガウス分布)と吸収率(ランバート・ビアの法則)を考慮した加熱モデルを考案した。数値解析には市販ソルバを用い、表面張力の温度依存性などの特性をユーザ関数として組み込んだ。表面張力の効果を気液界面に定義した極薄第1セルに作用する体積力として組み込んだ。得られた知見は、(a)表面張力流の時間発展の様子が数値解析されたこと、(b)その時間スケールや影響半径について実験結果と整合する結果が得られたこと、(c)表面流速の大きさは実験結果の方が有意に小さく、測定の空間分解の改善が示唆されたことなどである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(令和2年度)の計画として、下記の①と②を設定し、概ね順調に進展している。具体的には以下の通りである。 ①薄液膜のレーザスポット加熱による表面張力流発生のメカニズムの把握:現有の炭酸ガスレーザの動作確認とパワー測定を行い、シリコーンオイル液膜のスポット加熱に必要なビーム出力(最大数w)を確認した。非定常加熱を再現性よく行うため、シングルボードコンピュータによるシャッタ機構を構築した。シャッタ動作と高速度カメラの撮影開始を正確に同期させることにより、加熱開始から1s程度までの表面張力流の時間発展の様子を300fpsで撮影した。表面張力流の時間発展の様子を視野幅約12mmの範囲でPIV解析によって明らかにした。シリコーンオイルの動粘性係数を変化させ(2cStと5cSt)、液膜厚さを2.0~4.0mmで変化させ、実験データを蓄積した。 ②スポット加熱による表面張力流の時間発展の定式化と数値解析:軸対称な対流場を仮定し、気液界面と断熱固体壁に囲まれた解析領域について計算格子を定義した。炭酸ガスレーザビームの強度分布をガウス分布で近似し、吸収長0.25mmに対するランバート・ビアの法則を反映させて、スポット加熱のモデル化を行った。市販ソルバ(STAR-CCM+)を用いた数値解析を実施し、対流場(速度場と温度場)の時間発展の結果を得た。数値解析結果と実験結果の比較検討を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度(令和3年度)以降の目標は次の③~⑤であり、次年度は③および⑤の一部の達成に向けて推進する。 ③レーザビーム走査による表面張力マニピュレーション技術の開発:ガルバノミラーを用いたレーザビーム走査システムを構築し、炭酸ガスレーザを任意パターンで照射できるような制御システムを構築する。その機能を赤外線検出シートで可視化し、確認する。このシステムを用いて、シリコーンオイルの薄液膜を対象として、レーザビーム走査による加熱パターンの制御を施し、液膜に生じる表面張力流パターンの様子を明らかにする。レーザビーム強度、走査速度、走査パターンなどを変えて、それらが表面張力流の分布に与える影響を調べる。 ④表面マニピュレーション技術の効果の実証:上記③で開発した技術を用いて、シリコーン液膜内に局所対流のアレイ構造を形成し、その特性を調べる。トレーサ粒子による対流速度の可視化計測を行うとともに、トレーサ粒子の数密度分布の時間変化から対流混合の程度を定量化する。 ⑤表面張力流パターンと対流混合の数値解析:実験結果と比較できる数値解析を行い、表面張力パターンと対流混合の特性を明らかにする。対流混合については、従来の研究成果を発展させ、低ペクレ数条件における数値拡散の影響を抑えた解析を行う。計算コストの大きな非定常計算を効率的に行うため、上記②で考案したモデル化の改良を図り、その性能を評価する。
|