研究課題/領域番号 |
20K04328
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
向笠 忍 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (20284391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハイドレート / 誘電体バリア放電 / 化学反応場 / トルエン / テトラヒドロフラン |
研究実績の概要 |
ハイドレートに誘電体バリア放電(DBD)を照射したときのゲスト分子の化学反応について引き続き調査を行った.DBDを照射したときの熱によるハイドレートの融解の影響があるかを確かめるために,今年度は主に,DBDの周波数を変えたときの生成量の変化を調査した.照射時間を5分に定めたため,ハイドレートの融解の影響がなければ生成物の生成量は周波数に対して比例するはずである.ただし,このことはハイドレート深部までDBD照射の影響を受けた場合である.ゲスト分子として,トルエンとテトラヒドロフラン(THF)を用いた. 周波数を0.3~9.0 kHz,ゲスト分子にトルエンを用いた場合,3 kHzまではすべての生成物の生成量はほぼ比例して増加した.一方,3 kHz以降の生成量はほぼ一定となった.次にハイドレートと電極の表面積を増加したところ 6 kHzまで生成量は増加した.このことから,生成はDBDを照射している表面部でのみで起き,反応が飽和することが明らかとなった.次に,生成物のうちフェノールとベンジルアルコールの生成量の比を,ハイドレートの場合と,ハイドレートを融解して液体に戻してDBDを照射した場合で比較したところ,両者に明確な違いが現れる一方,周波数に対して大きな影響はみられなかった.このことから,ハイドレートに今回の周波数範囲内においてDBDを照射した場合,ハイドレートは融解せずにハイドレートの状態を維持している可能性が高いといえる. ゲスト分子にTHFを用いた場合,2-および3-hydro-tetrahydrofuran(2-および3-HTHF)が生成するが,両者の生成量の比が,ハイドレートの融解液にDBDを照射した場合はほぼ1であるのに対し,ハイドレートでは2~3となった.このことは,ハイドレートの化学反応場としての特異性であるといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベンジルアルコールによる反応容器等の汚染対策に想定外の手間が生じたものの,おおむね計画通りに研究は進展したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
ゲスト分子にトルエンを用いた場合,ベンジルアルコールとフェノールの生成量の合計に対するフェノールの比率は,ハイドレートにおいて41~46%,ハイドレートの融解液において29~37%であった.ゲスト分子にTHFを用いた場合,3-HTHFの生成量に対する2-HTHFの生成量の比がハイドレートにおいて2~3であるのに対し,ハイドレートの融解液においてほぼ1であった.このように,ハイドレートにDBDを照射した場合と,ハイドレートを融解した液体にDBDを照射した場合で,特定の生成物に対して生成割合に違いが生じることが実験的にわかってきた.一方,トルエンを用いた場合のクレゾール異性体の生成割合はオルト位が50~60%,メタ位が20~30%,パラ位が約20%とハイドレートと融解液の間で大きな違いはみられなかった.ただし,結果のばらつきが大きいため,今後,実験を継続して行いたい. さらに,ハイドレートと融解液との間で差が生じる現象を数値シミュレーションによって明らかにしたい.現在,ゲージ内のゲスト分子の配向性が影響していると考えている.ゲージを構成する水分子とゲスト分子との相互作用は,いわゆる極性といったクーロンポテンシャルが主になると考えられ,ゲージ内でポテンシャルエネルギーが最小となる配置を,エワルド法を適用した古典的分子動力学法から求めることを考えている.他の研究として,ハイドレートの数値シミュレーションは数多くみられるが,構造Ⅰ型のもの(主にメタンハイドレート)が多く,本研究で扱っている構造Ⅱ型のものは意外と少ない. クーロンポテンシャル以外の影響も無視できない可能性があり,さらに将来,化学反応シミュレーションを想定して第一原理計算を行うための準備を行う.まずは分子動力学法の結果との比較として,最小エネルギーを求めるところから行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度にCOVID-19などの影響で研究が停滞してしまったため,その分が差額として生じた.そのため次年度へと当研究の延長申請を行った.
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