本研究では、植物油の交差メタセシス反応によって、任意の炭化水素燃料基材を選択的に得ることを最終目標としている。まず、第一段階として反応物である植物油を構成する脂肪酸とオレフィンとの組み合わせにより、どのような組成の生成物が得られるのかを明らかにするため、単一組成の脂肪酸メチルエステルFAMEとオレフィンとのメタセシス反応実験をおこなった。その結果、多価不飽和脂肪酸メチルエステルほど生成物の種類が増加すること、オレフィンの反応量を増すほど反応が進むこと、炭素数の大きなオレフィンほど生成物に炭素数の大きな炭化水素が得られること、炭素二重結合位置が1位から2位に変わることで、交差メタセシス反応より自己メタセシス反応が強くなることなどが判明した。 つぎに、不飽和度の高いトリグリセリド成分で構成されているアマニ油と1-オクテンを用いて、Grubbs触媒を介した交差メタセシス変換反応実験を行った。その結果、炭素数C7の炭化水素成分が多く生成することを見出した。これに着目して、C7を生成する適切な反応条件(温度や反応時間)について系統的に調査した。その結果、撹拌速度を毎分100回転で撹拌した場合、10分以上の反応によって炭化水素成分の生成量が安定することや、反応時間約180分ほどで反応がほぼ化学平衡に到達することが明らかとなった。 また、量子化学計算プログラムGAMESSを用いて、オレフィンメタセシス反応における脂肪酸とオレフィンとの反応性調査を行った。計算では、アマニ油の主要な脂肪酸であるリノレン酸と1-オクテンとのオレフィン交差メタセシス反応において、種々の遷移物質を経由してシスーC-デセンを生成する反応経路について調査した。その結果、活性化エネルギーが低い遷移物質がいくつか見い出された。今後、さらに詳細に遷移物質と反応経路の探索を量子化学計算によって行う予定である。
|