研究課題/領域番号 |
20K04336
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
森 嘉久 岡山理科大学, 理学部, 教授 (00258211)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高圧合成 / 熱電材料 / シリサイド半導体 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,マグネシウムシリサイド半導体(Mg2Si)熱電材料を高圧技術により合成し,その合成物を用いた熱電モジュールを開発することにある.Mg2Siは,500℃周辺の中温領域で発電効率が大きいので,車載用熱電モジュールとしての利用が期待されるる一方,その実用化には,(1)安価で高効率な発電デバイスとするために不可欠なp型Mg2Si熱電材料を高圧合成により確立すること,(2)素子をデバイス化するために必要な電極の接触抵抗を小さくすること,(3)熱電材料を高温下に長期間放置するときに生じる酸化を抑制することなどが課題として挙げられる. 本年度は,新型コロナ感染症の影響で学外の共同利用研究が十分遂行することができなかったため,学内研究室で実施可能な熱電素子の耐酸化のための研究を中心に遂行することなった.Mg2Si熱電材料の合成にはMgH2の微粉末とSi粉末を使用し,それをペレット状に成型する.さらに,試料酸化抑制のためにパイロフェライト製のチューブを作成し,ペレットを内包した状態で高圧クランプセルに入れることで,外枠との一体合成を実施した.合成試料の耐酸化性を比較評価するために,高温下におけるゼーベック係数測定を数サイクル実施して,その発電効率や安定性を確認するとともに,測定前後のXRD実験を実施した. パイロフェライトチューブの有無による違いをゼーベック係数測定により比較した結果,チューブを付けることにより,明らかに発生起電力の測定値が安定していることが明らかとなった.また,測定前後のXRD実験からも耐酸化性が向上していることを示す結果となった.ただし,高圧合成時にパイロフェライトから水分が蒸発するため,それによる酸化をなくすことは困難であるので,酸化物等の別材料によるチューブの検討が課題となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,新型コロナ感染症の影響で研究計画の方向性を少し変更し,まずは研究室内で実施可能な課題である耐酸化性の研究を実施した. 絶縁物チューブで熱電材料を内包したものを一体合成したもののを,XRD構造解析実験やゼーベック係数測定から評価すると,耐酸化性が向上したことが明らかとなったので,課題克服に向けて前進したことになる.今回のチューブ材としてパイロフェライトを選択したことによる課題も見つかったので,今後その材料についても改善していくことになる. 一方,p型Mg2Si熱電材料を高圧合成する研究課題は,学外(岡山大学地球惑星物質研究所)の共同利用研究により遂行する計画であったが,これ関しては全く実験を実施することができなかった.新型コロナ感染症の影響は,さらに長期間継続するものと考えられるため,研究実施の方法を再検討する必要がある. 素子をデバイス化するために必要な電極の接触抵抗を小さくする研究課題に関しては,NiとMg2Si熱電材料との合金をはじめに合成し,それを粉砕しペレット状にしたものとMg2Si熱電材料を一体合成することで,接触抵抗を減少させることに成功した.その電極と熱電材料との界面が実用時にどのような影響を受けるかを調べるためには,実際の車載実験とともに界面の電子顕微鏡観察などミクロな実験などが必要となる.その研究テーマを遂行するため,まずMg2Si熱電材料の薄膜蒸着の可能性について調べる研究を開始した.手順としてはノンドープMg2Siのターゲットを作成し,それをスパッタ装置によりSi基板に蒸着して,基板と熱電材料との界面の状態を電子顕微鏡観察したり,その薄膜の熱起電力測定を実施した.新しい研究の方向性を模索しながらの研究内容であったが,順調な実験の解析結果が得られており,今後もその研究を発展させることになる.
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今後の研究の推進方策 |
耐酸化性に対する課題に対しては,MgOチューブやZrOチューブが選択肢として挙げられる.ただしこれらの材料は,細かい部品の工作加工が困難なため,熟練した技術が必要となる.そのあたりの工作技術の課題を克服しながら,遂行していく. 電極材について,Mg2Siのターゲットを作成してスパッタにより蒸着することまでは確認できたので,次のステップとしては,最適な電極材を探索するとともに,その電極材との一体合成実験を実施するとともに,薄膜実験においては,ターゲット作成からその蒸着を実施する.この研究内容は新たな方向性の研究となるが,この課題が解決されることによっては,新たな展開も期待できるので,積極的に遂行していきたい. p型Mg2Si熱電材料を高圧合成する研究課題は,学外の共同利用研究をベースに研究計画を立てているため,現在は,研究室内にある実験装置を改良して基礎データを取得することを検討・実施しながら,学外での研究が自由に実施できるようになってから研究を再開したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響で,学外での共同利用研究が研究計画通り遂行することが出来なくなった.そのため,研究の方向性を再考・微修正し,研究室所有の既存装置活用による基礎データの取得と薄膜蒸着法による熱電デバイス研究の可能性に向けた実験準備を実施した. 実験結果としては予想以上のものを得ることができたが,予算計画としては十分に遂行することが困難であったため,次年度に繰り越すこととなった
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