研究課題
自動車用ガソリンエンジンの低燃費化には,圧縮比を高めることが有効であることが古くから知られているが,ノッキングに代表される異常燃焼が生じてしまうため圧縮比の増加には限界がある.ノッキングを避けながら圧縮比を高めるために,ノッキング現象を詳細に調べる必要がある.ノッキングは小空間で生じる爆発的な高速燃焼であり,同現象を精密に捉えるためには高い時間解像度で火炎面を捉えることができる計測が必要となる.一般には光学可視化や圧力計測などが用いられることが多いが,計測の時間的・空間的解像度の制限によりノッキングを精密に捉えるには至らない.本研究グループが開発しているマルチイオンプローブ法(複数のイオンプローブを用いて火炎面を空間的に捉える計測手法)は定容燃焼管内で発生させた様々な種類の火炎を,高い時間解像度で詳細に捉えられることが明らかになっており,同計測法がガソリンエンジン内のノッキング現象を捉えるための十分な時間解像度を有することを確認している.本研究は,マルチイオンプローブ法をガソリンエンジンに適用し,同計測法でノッキング現象の発生初期から発達過程を詳細に捉えることを最終目標としている.マルチイオンプローブ法をガソリンエンジンに適用するためにはエンジンへの設置のしやすさが求められる.また局所的なノッキングの発達を捉えるためには,イオンプローブの高密度設置も要求される.これらを考慮して,小面積に高密度でイオンプローブを配置したユニット型マルチイオンプローブの開発を本研究期間内での目標としている.研究期間内には,イオンプローブの高密度配置が計測性能に及ぼす影響を調査し,適切な設置密度でユニット型マルチイオンプローブを製作し,定容容器で発生させた疑似ノッキングの計測を試みる.
2: おおむね順調に進展している
単一多穴セラミックを用いてイオンプローブの設置間隔を小さくし,イオンプローブの高密度設置が伝播火炎の計測性能に及ぼす影響を調査した.イオンプローブの素線直径は0.3㎜,イオンプローブ同士の設置間隔は0.75mmとし,4行×4列で計16本のイオンプローブを設置した.なお本条件で設置密度は178本/cm2となる.この高密度マルチイオンプローブを定容燃焼管に設置し,メタン・酸素の当量混合気で発生させた伝播速度が2.4km/sのデトネーションを計測した.この場合のイオンプローブの立ち上がり時間差は0.3μs程度となるが,信号増幅用オペアンプの個体差が影響し,得られたデータが十分に信頼できるとの結論には至っていない.上記とは別に,内径3mmの真鍮パイプに外径1mmのシース型イオンプローブ7本を稠密に設置したユニット型マルチプローブを製作した.この設置密度は115本/cm2となる.このユニット型マルイチオンプローブを2ストロークガソリンエンジンに適用し,ノッキングが発生していない通常燃焼を計測したところ,局所的な火炎の伝播速度と伝播方向を検出することが可能であることを確認できた.
2020年度で調査した高密度に設置したマルチイオンプローブ(178本/cm2)の計測特性は,前述のとおり信号増幅用オペアンプの個体差が影響し,得られたデータが十分に信頼できるとの結論には至っていない.次研究期間では信号増幅回路を見直して,同設置密度での計測制度の向上を図る.さらに単一多穴セラミックにおける加工上の制約の点では現状以上のイオンプローブ設置密度も可能であるので,信号増幅回路の見直しの目途が着き次第,さらに高い設置密度のマルチイオンプローブを製作し,伝播火炎の検出性能を調査する.また稠密に設置したユニット型マルチイオンプローブについても,2ストロークガソリンエンジン内火炎の調査を引き続き行う.さらに点火時期を早期化してノッキングに近い燃焼を発生させ,ユニット型マルチイオンプローブでの火炎検出を試みる.
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Combustion and Flame
巻: 227 ページ: 283-295
10.1016/j.combustflame.2020.12.043