研究課題/領域番号 |
20K04340
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原田 宏幸 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90301936)
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研究分担者 |
田島 悠介 北海道科学大学, 工学部, 助教 (00849375)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / SMA / アクチュエータ / 音声 / 音響計測 |
研究実績の概要 |
2020年度の実験結果を受けて,2021年度は,これまで変位計測を中心に行ってきた形状記憶合金(SMA)アクチュエータの高周波数駆動時における応答特性の測定と評価を,マイクロフォンと音響解析システムによる,より研究目的に即した評価方法に置き換えることを中心に検討を進めた.また,当初の研究計画に従い駆動系の構造のバリエーションについて検討を行い,実際に音を出力できる装置の試作を行った.リカレントニューラルネットワークを用いたSMAアクチュエータの機械学習モデルについて,過去のデータを参照した検討を開始した.得られた結果の概要を以下に示す. 新たに導入したマイクと音響解析システムを用いた実験環境の構築を行い,SMAアクチュエータによって出力される音の測定と評価が,目標としている上限周波数である7kHzまでの範囲において可能であることを確認した.SMAアクチュエータの駆動方法として,電力制御を導入することで,電圧制御よりも正当な駆動条件の比較ができるようになった.駆動入力条件,SMAの種類や太さの違いなど,実験条件に従来よりも幅広いバリエーションを持たせ,有用な知見を得た.特に,測定された音圧は,SMAアクチュエータのひずみ量に対して上に凸の傾向を示し,相変態が起こる中間領域で最大値を示すであろうことが示唆された.一方で,高い音圧が測定された領域では,入力条件を安定的に維持することが難しく,真に音圧を最大化し得る最適な入力条件を見出すには,そのための特別な制御方策が新たに必要であることも示唆された.新たな駆動方式として,シリコン膜にSMAワイヤを縫いこんだ構造が検討され,また同時に人間の耳型を模した実験装置を製作して評価を行った.その結果,単一周波数の音については,実際に音声デバイスとして利用可能であると考えうる出力が可能であることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画による2021年度の実施事項は,主としてSMA駆動系のバリエーションについての検討であった.また,駆動の最適条件を見出すための機械学習の導入についての検討も含まれていた.これに対し,2020年度の実施結果に基づいて,当初は研究の最終段階に導入予定であった,マイクロフォンと音響解析システムによる測定および評価方法の導入を先行して行うこととした.音による測定および評価方法の導入については順調に完了し,SMAの特性に関する多くの有用な知見が得られた.本順序変更に伴い,SMA駆動系のバリエーションについては,プッシュープル型を後にまわし,面外駆動型を中心に検討を行った.本検討においては,単なる特性検証に留まらず,実際の音声デバイスを想定した測定環境の構築に加え,実際の音声デバイスに応用可能な形状・出力の獲得がなされており,当初の予想を上回る進捗があったものと考えている.当初計画のうち機械学習の導入については,プログラムの構成において課題が生じ,その解決に時間を要しており,年度末時点で検討の段階を出てはいない.しかし,当初計画から遅れているという程の状態ではないと考えている.以上を総合し,新たに獲得した知等によって,当初の研究計画とはやや異なる展開が生まれてはいるものの,SMAアクチュエータによる音声デバイスの実現という研究目的には順調に近づいていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に得られた知見により,これまでに用いてきた電圧,電気抵抗値,電力制御のいずれの場合も,それ単体では出力音圧を最大化しうる入力条件を安定的に維持することが困難であることが明らかとなった.そこで今後はまずこの問題の解決を試みる.具体的には,現在の入力信号波形を維持するための制御ループに,信号レベルを維持するための専用の制御ループを加え,任意の駆動条件を安定的に獲得することを試みる.本件については,都合により2021年度末をもって研究分担者から外れた田島悠介氏に,引き続き研究協力者として協力を受けながら進めてゆく.さらに,ランダム周波数入力に対する応答について検討を進める.これまでの実験と同様の,単一のSMAアクチュエータによる音圧レベル測定に基づく評価方法に加え,複数のSMAを複合した場合の出力についても測定および評価を行い,研究目的の達成に向けて様々なアプローチが取り得るように,幅広い知見の獲得を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの感染状況は大きく改善したとは言えず,2020年度に引き続き,旅費として計上していた経費の使用が進まなかった.旅費については,感染状況を見ながらその使用方法を検討する.また,研究分担者の退職に伴い,当初予定していなかった未消化分が発生した.これについては,測定環境の充実に充当することを検討中である.
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