2023年度は,2022年度末時点での課題であった,音量と音圧の両立について,強化学習を用いた入力波形の最適化を試みた.その結果,概ね1kHz以下の低周波数帯域では,正弦波が最適波形であるが,1kHzを超える高周波数帯域では,学習によって得られた,正弦波とは異なる波形により,音量と音質を向上させられることが分かった.入力信号の周波数に応じてこれらを組み合わせることで,音量と音圧を両立した音の発生が可能であることを示した. 研究期間全体を通じて,従来,高速駆動が困難であるとされてきた形状記憶合金(SMA) アクチュエータの音源利用について検討を行ってきた.その結果,研究代表者らの提案による高速駆動手法を適用することで,音声周波数帯域での駆動,および音の発生が可能であることを,主に実験的に示すことができた.これにより,SMAがもつ,柔軟で単純な構造で駆動が可能,小型で重量当たりの発生力が大きい,といった特徴を生かした新たな音声デバイスの発展が期待できると考える.主な成果を以下に示す.SMAの音生成が可能な駆動条件とその特性を明らかにした.SMAの制御手法として,電力制御が有効であることがわかった.これにより,最適駆動条件付近でのSMAの特性とも相まって,より安定した音の発生が可能となった.実験結果に基づいて,SMAの入出力関係の数式モデルを獲得した.これを入力信号に対するフィルタとすることで,様々な周波数成分を含む入力信号に対して,適切な出力を得る方法を示した.駆動方式として,拮抗型など,いくつかの方法を検討した.強化学習による入力波形の最適化を試みた.以上のように,本研究を通じて,SMAアクチュエータによる音生成における諸特性が明らかになるとともに,今後の実用化に資すると期待される様々な基礎的知見を獲得することができた.
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