研究課題/領域番号 |
20K04347
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
浅沼 春彦 金沢大学, フロンティア工学系, 助教 (10757298)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 振動発電 / 非線形回路 / 非線形圧電性 |
研究実績の概要 |
本研究では,高い発電量と発電可能な周波数の広帯域化を両立する振動発電素子の実現を目指し,圧電素子の機械-電気結合の強化現象を活用するマルチスイッチ非線形回路の原理開拓と実証を進めている.前年度に確立した連成解析法をベースにして,本年度はマルチスイッチ非線形回路のスイッチング条件と発電量の周波数特性の関係解明に努めた.初めに,遅延なく高速にスイッチングを行う評価セットアップを構築した.正確なスイッチ制御と発電性能評価には高速信号制御機(dSPACE)とスイッチ回路のグラウンドを分離する必要があった為,絶縁型DC-DCコンバータ,フォトカプラ,バッファを併用した絶縁型ローサイドスイッチ回路を設計して目標仕様を達成した.スイッチのOn/Off回数を制御する事で発電回路のインピーダンスを可変に出来る事を確認し,スイッチ回数の最適化を検討した.また,スイッチングによりインピーダンスを低い状態から高い状態へ変化させる事で非線形圧電性から得られる周波数特性の2つのピークからの発電を確認した.発電特性の加振加速度依存性の評価結果から,加振加速度が上がるほど非線形圧電性に由来する2つのピークが離れ,発電可能な周波数領域がより広がる事を確認した.以上の結果により,外部信号制御による予備検討の段階ではあるが,マルチスイッチ非線形回路により高い発電量と広帯域化の両立が可能である事を実証した.更に,実験結果を踏まえ,周波数特性の2つのピークから適応的に高い発電を行う回路を検討し,その最適なスイッチの配置と制御手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論通りの高速スイッチングを行う評価セットアップを構築して,本年度の目標であるマルチスイッチ非線形回路のスイッチング条件と発電量の周波数特性の関係を解明できた.主たる目的は達成できたと考える.成果の一部を日本機械学会北陸信越支部2022年合同講演会で公表した.評価セットアップの構築にかなり時間を要したため,次年度の目標であるセルフパワードスイッチ制御の事前検討までは実施できなかったが,優れた評価セットアップのおかげで先行研究の結果とは異なる知見が得られた.圧電線形モデルに基づいた先行研究では,発電量のピークはあるスイッチ回数(20回程度)で頭打ちになると報告していたが,我々の研究では更に多くのスイッチ回数が最適である事を明らかにした.この結果の違いは,先行研究のスイッチ回路は簡易で精密制御が出来ず遅延が発生していた為と推察される.我々の考案した最適スイッチ条件を適用すると,より高い発電量が得られ更にスイッチ制御の消費エネルギも削減する事が出来る.スイッチングによる電気エネルギ回収効率の向上と機械振動変位の抑制はトレードオフの関係があり,その最適な条件を求める事は容易では無いが,我々の最適スイッチ条件が得られた理由を説明できる理論の構築が重要と考える.新たな技術課題と捉え,次年度にその解明に取り組む.
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,前年度に解明した最適スイッチ条件をセルフパワードで実施するマルチスイッチ非線形回路を開発し,高い発電量と発電可能な周波数の広帯域化を両立する振動発電素子を実現する.前年度の実験結果から周波数特性の2つのピークから適応的に高い発電を行うスイッチ回路を検討した為,この知見をベースに回路設計を行う.低消費電力のスイッチ回路をディスクリート素子で設計する予定であるが,当初の予測よりも高速にスイッチングを行う方が優れた発電特性が得られる事が分かってきたため,超低消費電力マイコンを用いたスイッチ制御も検討する.ソースメジャーユニットを用いて回路のスイッチ制御に要する消費エネルギを明らかにし,低消費電力化に必要な条件を定量的に解明する.単3乾電池ほどの大きさから高い発電量と顕著な非線形圧電効果が表れる圧電型振動発電素子の構造を設計する.産業機械の環境振動でターゲットとされる振動周波数(数10Hz)と加速度(0.1G~0.5G程度)の加振試験から無線センサモジュールの駆動に必要とされる数ミリワットの発電量を達成する.また,実環境のランダム加振実験を実施して,マルチスイッチ非線形回路を適用した圧電型振動発電素子の高い発電量と広帯域化を実証する.
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