本研究では,圧電型の振動発電素子における非線形圧電性に着目し,非線形圧電性とスイッチを有する非線形発電回路の併用で発現する機械-電気結合の強化現象を活用して,高出力・広帯域化を両立する高性能な振動発電素子の実現を目指した.実験を高精度に再現する非線形圧電性モデルを選定し,それを用いた振動発電素子の新たな支配方程式を導出した.支配方程式による解析を手掛かりに,本年度は高出力・広帯域化を実現するマルチスイッチ非線形回路の設計およびセルフパワード化の検討を行った.その結果,以下の研究成果を得た. 非線形圧電性はショート回路側の特性で見られる剛性のソフトニング効果と,オープン回路側で見られる剛性のハードニング効果をもたらす.非線形回路によりこれらの効果を顕著にして発電の高出力・広帯域化を実験で実証したが,オープン回路側の剛性のハードニング効果は想定ほど顕著に表れなかった.実環境中の加振水準では変位(負荷応力)が小さく,機械-電気結合を想定の値まで高める事が出来なかったのが原因と思われる.破損に強い圧電材を選定し,負荷応力が増大する振動構造を設計すれば,更なる高性能化が可能と思われる. マルチスイッチ非線形回路はスイッチ回数を可変にすることで発電の高出力・広帯域化を実現する.商用の電子回路モジュールの組み合わせによりセルフパワード化を検討した.しかし,IoT電源への応用を目指した小型発電素子から得られる電力1~3mWではスイッチ可変回路の自律駆動は困難であった.そこで代替案として,高速スイッチングパルス幅変調制御を検討した.デューティ比を調整する事で想定されたスイッチングを模擬的に再現出来る事を確認した.小型の振動発電素子での実現は難しいと思われるが,5~10mW程度の電力が得られれば,超低消費電力マイコンでパルス幅変調制御は可能と思われる.
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