研究課題/領域番号 |
20K04392
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
江丸 貴紀 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30440952)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | SLAM |
研究実績の概要 |
本研究では、広域な森林管理に有効な無人飛行体(UAV, Unmanned Aerial Vehicle)と無人地上移動機 (UGV, Unmanned Ground Vehicle)との連携による地図生成と自己位置同定の同時解決問題 (SLAM, Simultaneous Localization And Mapping)を目的とする。林業においては樹木を植栽してから伐採するまでの様々な作業において機械化が進んでいるが、育林初期における下草刈りは大きなコスト、人手が必要にもかかわらず作業の自動化が進んでいない。本研究では、UGVに搭載したカメラ画像認識による樹木と下草の識別精度向上に取り組むとともに、UAVからの情報を補完的に利用することにより樹木や地形をロバストに認識し、さらに認識結果を生かした高精度マップを構築することによって林業環境における除草作業の軽労化・自動化実現を目指す。令和3年度の研究実績概要は以下のとおりである。
課題1[画像認識]:画像情報を利用して樹木と雑草を識別するために、高精度な物体検出・セグメンテーションを実現する深層学習ベースのアルゴリズムの開発・検証を行った。この分野のSOTAの1つであるMask R-CNNを改良することで作物・雑草を高精度で識別するアルゴリズムを開発した。
課題2[UGV-UAV連携]:森林環境において高精度な3次元地図を構築するためには、UAVによる情報のみでは移動可能な地上の経路情報を獲得することは難しく,UGVによる情報のみでは個々の樹木の太さを知ることは困難である。そこで、上空から獲得した情報と地上から獲得した情報を組み合わせる手法を検討し、真値が得られる研究林において上空および地上からLiDARの点群情報取得を実施し、それらを融合することによって高精度な3次元地図を構築する手法の評価を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の研究目標は、広域な森林管理に有効なUAVとUGVとの連携によるロバストなSLAMを実現するために、上記の課題1および課題2を解決することである。いずれの課題についても実フィールドによって得られたデータに基づいて研究を進める必要があるが、令和3年度も令和2年度に引き続きコロナ禍の影響によりフィールドにおけるデータ収集を頻繁に行うことができなかったため、特に検証については課題として残っている。しかしながら、これまでのプロジェクトで我々が蓄積したデータを利用することによって研究を推進した。これをもって、研究プロジェクト全体としては「おおむね順調に進展している」とする。以下、それぞれについて詳細に説明する。
課題1[画像認識]:フィールドの関係で、除草が必要な樹高1m以下の森林環境でデータを取得することができなかったため、認識の観点からはより困難であると考えられる圃場の作物と雑草をターゲットとした。具体的には同じイネ科である作物(ハトムギ)と雑草(ヒエ)を高精度に識別することを目的とし、除草作業に必要な認識精度を得ることができる深層学習フレームワークを提案した。さらに、この深層学習フレームワークの汎用性について評価するため、作物として大豆を対象とした実験も行い、提案する手法の有効性について検証した。 課題2[UGV-UAV連携]:UAVによって取得したLiDARの点群情報と地上から取得したLiDARの点群情報を融合することによって高精度な3次元地図を構築するため、真値が得られる研究林において実証実験を実施した。フィールド内に存在する樹木が100本程度であり、それらの認識・マッピングについては高精度に実現できたが、本プロジェクトの目的である大規模フィールドに対する検証が課題として残っている。今年度は令和3年度の成果を大規模フィールドで検証することを目的に研究を推進する。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度はより様々な実フィールにおいて実証実験を実施し、令和2年度,令和3年度に確立した要素技術の統合を図る。また、令和3年度にコロナ禍の影響により実施できなかった実フィールドにおける実証実験を可能な限り実施し、提案手法の検証及びブラッシュアップに努める。なお、当初の計画ではフィリピンのバナナ、タイのゴム、マレーシアの油ヤシ(パームツリー)などに代表される海外プランテーションにおける調査を予定していたが、令和4年度においても海外におけるデータ収集を頻繁に実施することは非常に難しいと考えられる。そこで国内、特に北海道内のフィールドにおいて実証実験を行うべく準備を進める。研究林に代表される森林環境のみならず、圃場,果樹園など多様なフィールドをターゲットとして研究を推進する。具体的な取り組みとして、課題1および課題2について以下のように研究を進める。 課題1[画像認識]:雑草と樹木の識別精度は、天候などの条件によって大きく変動することが考えられる。令和3年度の成果をもとに、深層学習の分野の成果を取り入れながら認識のロバスト化を図る。さらに実際の除草作業を想定すると、認識にかかる時間を可能な限り短くすることが必要である。処理の高速化(リアルタイム化)についても並行して研究を進める。また、地図が作成された後は、作物や樹木の位置は大きく変わらないことから、自己位置同定の結果を利用することにより、地図情報をもとにした認識の高速化などについても検討する。 課題2[UGV-UAV連携]: UAVとUGVの間には、速度や実際に通過可能な経路の違いが存在する。これらの情報を動的に融合することによる、3次元的なSLAMとしての問題解決に取り組む。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では国際会議における成果発表、同内外における実証実験などを計画していたが、コロナ禍の影響で学会は全てオンラインとなり、実証実験についても道内のフィールドに限定されることとなった。そのため、GPU等の物品を購入することによりシミュレーション環境の構築を行い、研究を推進した。さらに研究代表者・研究協力者が所有する計測機器などを効率的に利用することにより予算の執行を効率的に行い、結果として582円を次年度使用額として繰り越した。
繰越額が相対的に大きな金額ではないため、令和4年度は当初の研究計画に基づき、効率的な予算執行に努める。
|