研究課題/領域番号 |
20K04411
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宮城 大輔 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (10346413)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鉄損推定 / 異常渦電流損 / 無方向性電磁鋼板 |
研究実績の概要 |
電気自動車やハイブリッド自動車には,広範囲で可変速可能なPWMインバータで工藤する埋込磁石型同期モータが用いられるが,市街地走行時の低速回転・低負荷の駆動領域で増加する渦電流損の推定手法が確立されておらず,高効率なモータ設計時の大きな問題となっている。この問題を解決するために,無方向性電磁鋼板の異常渦電流損を含めた渦電流損のモデリング手法の検討を行うための異常渦電流損測定システムの構築と損失評価を行った。電磁鋼板に励磁する磁束密度波形を制御できる測定システムを構築し,市販されている電磁鋼板のSi添加量が比較的近くて異なる板厚の電磁鋼板の異常渦電流損を測定し,それらの比較を行った。その結果,渦電流損は板厚の2乗に比例すると考えられているが,異常渦電流損は板厚にほとんど影響しないことを示唆する測定結果が得られた。つまり,板厚の薄い電磁鋼板は,渦電流損が小さいため異常渦電流損が全損失に占める割合も大きくなり,異常渦電流損係数が大きくなる結果が得られた。この結果の特性は,フェライトの動的磁気損失と同様の特性を示していることから,正弦波磁束励磁ではなく,磁束密度の時間変化が常に一定となる三角波磁束励磁により異常渦電流損の測定を行い,モデル化の検討を行う。そのための,三角波磁束励磁が可能な測定システムの構築を行った。また,インバータ励磁下での渦電流損を検討するため,プレイモデルを用いたヒステリシスモデルに一次元有限要素法による渦電流解析を組み合わせた,ヒステリシス損と古典渦電流損のみを推定できる鉄損推定モデルの構築を行った。この鉄損推定モデルにより,異常渦電流損を除いた渦電流損とヒステリシス損を数値解析により求めることが出来るようになり,この推定手法に異常渦電流損の推定手法を加えた鉄損推定モデルの構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電磁鋼板に任意の磁束波形を励磁することが出来る鉄損測定システムを構築することができ,三角波磁束波形励磁も可能であることを確認した。また,Si添加量が似通った試料の異常渦電流損を測定し,それらの単位体積当たりの損失がおおよそ同じであることを示唆する実験結果が得られた。その結果は,板厚の薄い電磁鋼板の異常渦電流損係数が大きくなる理由にもつながる結果であり,更なる多くの試料の測定結果を得ることで,異常渦電流損の特性を明らかにし,モデル化の検討を行うことの重要性を示したと言える。また,インバータ励磁下での損失推定手法の基礎となる,ヒステリシス損と異常渦電流損を除いた渦電流損を計算する推定モデルを構築し,異常渦電流損のモデル化を検討するための数値解析モデルの基盤となる部分の開発を行った。しかし,コロナの影響により実験システムの構築に十分な時間を割くことが出来ずに単板磁気試験器を用いた測定システムの構築を行うことが出来なかった。また,構築した測定システムにおいて十分な検証が出来ておらず,測定精度に関しては更なる検討と向上が必要である。以上のことから,やや遅れているとの判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
構築した測定システムを用いて,三角波磁束励磁下での異常渦電流損測定を行い,実測値の分析ならびにモデル化の検討を行う予定である。これまでに構築した鉄損測定システムは環状試料を測定するシステムであったため,試料の特性が大きく異なる圧延方向とそれに対する直角方向が測定磁路に含まれた測定結果となるがこの影響が異常渦電流損のモデル化の検討に及ぼす影響を検討するため,圧延方向のみの鉄損測定を行える単板磁気試験器の製作を行い,圧延方向の磁気特性や直角方向の磁気特性で異常渦電流損の違い等を実験結果により明らかにする。さらに,インバータ励磁下での鉄損推定手法の確立を目指して,インバータ励磁下での鉄損測定システムの構築を行う。また,三角波磁束密度励磁による異常渦電流損結果により,磁束密度の時間変化一定時の異常渦電流損について調査し,フェライトの動的磁気損失との特性と比較を行うことで,モデル化の検討を行う。さらに,プレイモデルによるヒステリシスループを考慮した渦電流解析手法の開発を進め,異常渦電流損の考慮の仕方を実験結果を分析することで検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響もあり,単板磁気試験器を用いた測定システムの構築を行うことが出来ず,次年度に行うこととしたため。
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