研究課題/領域番号 |
20K04416
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
川島 朋裕 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70713824)
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研究分担者 |
村上 義信 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10342495)
穂積 直裕 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30314090)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 部分放電 / 波形 / 特徴量 / 電気トリー / 絶縁劣化 |
研究実績の概要 |
電気トリーの発生と進展は,電力機器の長期使用に伴った絶縁劣化の最終局面であり,信頼性を著しく低下させる。電気トリーは,部分放電(PD)を伴った局所的な絶縁破壊の一種である。多くの研究者が電気トリーの発生・進展メカニズムの解明を目的に,電気トリー中のPD計測に精力的に取り組んできた。従来手法の多くは,計測装置のデジタル信号処理が未熟だったために,波形をアナログフィルタで加工し,発生位相角や電荷量に代表されるPD特性を定性的に反映したパラメータへの変換に留まっている。一方,本来のPD波形(PD原波形)は,放電空間における電子なだれの挙動が,波形の立上りや立下り時間,周波数スペクトルなどの特徴量に反映されている。波形そのものが放電空間の状態を知る貴重な情報となる。 電気トリー中のPD原波形を時系列に沿って全て記録可能な,広帯域PD計測システムを開発した。このシステムは,連続的なPD波形をタグ(発生時刻や測定条件)と共に記録できるため,任意の数のPD波形を抽出し,波形間の特徴量変化を時系列に沿って解析することが可能である。 絶縁材料として広く用いられているエポキシ樹脂および,同樹脂中にマイクロシリカを添加したマイクロコンポジット材料中で電気トリーを発生させ,電気トリー中のPD波形を時系列に沿って全て記録した。PD波形の立上り時間は電子なだれ過程,立下り時間はイオンのスイープアウト過程を反映している。立上り時間,立下り時間,半値幅などの波形特徴量を統計解析し,電気トリー内部の電荷挙動を波形特徴量から推定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,広帯域PD計測システムの開発を主に行った。開発したPD計測システムの周波数特性が十分に把握できていないが,電気トリー中の特異なPD波形の観測と共に,放電空間内部の電荷挙動の推定が可能となった。主な成果は以下の通りである。 1.電気トリー中におけるPD波形は,単峰波形が支配的であるものの,多数ピークを有する波形が観測された。それぞれのピークの時間差は数10 nsであった。特に樹脂中にフィラーを添加した場合に,この変化が顕著に表れた。フィラーの添加によって,電気トリー管壁面の電子親和性は変化する。壁面に電子が吸着され易くなり,これによる電界強調が電子なだれの発生を助長したため,複数回のピークを有するPD波形が観測されたと考えられる。 2. 電気トリーは複数のトリー管(放電点)を有するため,形状が複雑である。フィラーを添加した場合には,トリー管内の電子なだれ過程も変化する。PD波形の特徴量はトリー形状の効果とフィラーの効果の両方の情報を反映するが,それらを分離することは困難であった。そこで,模擬トリー管を用いて放電点を限定し,両者を分離して議論した。模擬トリー管中においても,電気トリーと同様の特異な波形が観測されており,枝分かれがない場合でも壁面の状態と放電空間の拡がりによってPD波形に差が現れることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
広帯域PD計測システムによって,電気トリー中で生じるPD波形の特徴量変化から,トリー管内部における電子なだれ過程に関する情報が抽出可能となった。実験結果の一部は,フィラーの添加によって電子なだれの進展が抑制されることを示唆している。 一方で,計測したPD波形が計測系の周波数特性に依存したものではなく,PD現象由来であることを明確にする必要がある。本研究では較正手法として,検出インピーダンスからパルス電圧を入力し,反射波形を解析して計測系の伝達関数を実験的に求める。求めた伝達関数から計測系の周波数特性の把握を試みる。計測系の周波数特性を踏まえて,計測したPD波形の周波数スペクトルを解析し,電気トリーの発生と進展特性をPD波形の観点から考察していく。
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