最終年度の研究では、耐熱性や腐食耐性に優れた特性を有するCrN層をベースに、摩擦係数の低下が期待できるTiN層を挟みながらCrN/TiN多層フィルム膜を、CrN層厚の範囲を8-27ナノメートル、TiN層厚の範囲を1.5-25ナノメートルとして、膜の厚さが1.0-1.2マイクロメートルに達するまで多層に積み上げた。作成した多層膜の機械特性に加え、膜の構造と層厚との関係に関する調査を行った。 なお、膜の構造はX線回折、透過電子顕微鏡により観察した。その結果、作成したほとんどの膜でテンプレート効果といわれるエピタキシャル的な膜成長は実現できなかったが、主として(200)および(111)結晶面が観測され、ナノ結晶子サイズを有する多結晶構造を形成していた。硬度はCrNおよびTiN 層の厚さに強く依存せず、多層膜の最大硬度はCrN単層膜よりも約6GPa高い24.5GPaに達した。一方、摩擦係数はTiN層の厚さに依存しており、TiN層の厚さを2ナノメートル以上にした場合は多層膜の摩擦係数は0.2-0.3に急激に減少した。 遷移金属窒化膜は、高い機械的硬度、 熱的および化学的安定性、耐摩耗性を必要とする保護コーティングとして広く使用されている。ナノメートルスケールで異なる特性を有する材料により多層膜を形成することで、各材料の特性の利点を利用して膜特性が改善される可能性がある。本研究ではパルススパッタプラズマを用いた高密度金属イオンや窒素イオンによるイオンプロセスで膜の緻密性(膜密度)の高い積層型フィルムの作成を行い、その有用性を示すことができた。
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