研究課題/領域番号 |
20K04449
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研究機関 | 足利大学 |
研究代表者 |
横山 和哉 足利大学, 工学部, 教授 (60313558)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超伝導バルク体 / パルス着磁 / 軟鉄ヨーク / 回転機応用 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
世界的に重要視されているSDGsや地球温暖化の問題において,再生可能エネルギーの利用促進や,航空機や船舶などの温室効果ガス排出抑制が重要な課題となっている。前者においては,大型風力発電の導入が検討されており,その発電機は小型・軽量で高出力の機器が必要とされている。また,後者では従来のジェットエンジンやディーゼル/スチームエンジンに代わり電気推進装置が検討されている。発電機やモーターの小型化において,大電流化及び高磁場化が必要であり,磁場発生装置として超伝導バルク磁石の適用が検討されている。超伝導バルク磁石は小型・安価な装置で従来の永久磁石や鉄心コアの電磁石の限界である2テスラを超える磁場を容易に発生することができる。また,着磁方法としては,オンサイトで短時間で作業できるパルス磁化法が有効である。一般的に,同手法において発生磁場を大きくするために軟鉄ヨークが用いられる。本研究は,発生磁場の向上と装置の軽量化を目指して,軟鉄ヨークの形状や大きさが捕捉磁場特性に及ぼす影響を実験及び数値解析により評価している。これまでに円柱型,円筒型,クロス型など形状を変えた場合や,円柱型ヨークの直径や厚みを変えた場合について検討を行い,クロス型ヨークで優位性を確認するとともに,ヨークの厚みが大きく影響することを明らかにした。これらの結果について,EUCAS2021(欧州応用超伝導会議,2021.9.5-10), PASREG2021(バルク超電導体の基礎と応用に関するワークショップ,2021.11.11-14)MT27(磁石技術に関する国際会議,2021.11.15-19),第101回低温工学・超電導学会研究発表会(2021.5.19-21),令和4年電気学会全国大会(2022.3.21-23)等で発表するとともに意見交換・情報収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,以下の3つの内容を中心に研究を進めることとしている。 ①リング状,または非対称形状のヨークによる着磁特性を評価する。これにより,意図的に印加磁場の高低を形成し,バルク体の特性の低い部分から磁束を侵入させることができるか確認する。 ②数値解析により磁場侵入の過程や捕捉磁場特性等について詳細に検討し,着磁メカニズムを理論的に明らかにする。 ③本研究室所有の冷凍能力の異なる冷凍機を用いた磁石装置を用いて捕捉磁場特性を調査する。 ①については令和2年度までにほぼ完了し,令和3年度は②及び③について検討を行った。②の数値解析では,円柱型ヨークを用いた場合について本研究室のバルク磁石システムのモデル化を完了し,温度や印加磁場を変化させて捕捉磁場特性を評価する実験方法と同様の解析を行った。解析結果を実験結果と比較した結果,捕捉磁場等の絶対値に差異はあるものの,変化の傾向は一致することを確認した。これにより,構築した解析モデルの妥当性が確認でき,更に磁場侵入及び温度変化の過程を可視化することに成功した。現在,リング型及びクロス型ヨークについてもモデル化及び着磁シミュレーションを開始したところである。③については本研究室が所有する水冷式2段GM冷凍機(冷却性能:12W@20K),及びスターリング冷凍機(10W@80K)を用いたバルク磁石装置において実験を行い,円柱型ヨークの厚みが捕捉磁場に及ぼす影響を評価した。50Kにおける捕捉磁場特性を比較した結果,ほぼ一致する結果が得られた。これは小型で比較的冷凍能力が低い冷凍機を用いた場合の装置でも,発電機やモーターに適用可能であることを示唆している。今後,形状の異なるヨークについても実験を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は本申請課題の最終年度となるため,最適なヨークの形状の提示を目指して研究を進める予定である。現在,円柱型ヨークを用いた場合の数値解析はほぼ終了しており,円筒型及びクロス型ヨークについて数値解析を行う。さらに,実際の超伝導バルク体は試料作製過程において特性の良い部分と少し劣る部分が形成されるため,このような試料の不均一性を考慮した解析モデルの構築も進める予定である。これまでの実験結果から,バルク体のパルス着磁においては試料の不均一性を利用して,特性の低い部分から磁束を侵入させ,その後で複数回弱い磁場を印加することでその部分にも磁場を捕捉させ,高い捕捉磁場を達成できることを確認している。これは,着磁過程におけるピンニング損失及び粘性損失に伴う温度上昇を抑制し,臨界電流密度の低下を防ぐことで,結果的に高い捕捉磁場を達成することができる。本解析モデルにおいても上記を再現し,バルク体の不均一性を活用しつつ,軟鉄ヨークの形状を変えることにより印加磁場も意図的に不均一にして,効率的に磁場を捕捉させることを検討する。そして,3年間の研究成果をまとめるとともに, ASC2022(応用超伝導国際会議,ハワイ,2022.10.23-28)やISS2022(国際超伝導シンポジウム,2022.11.29-12.1),電気学会,低温工学・超電導学会等で報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は,令和2年度に続き当初予定していた国際会議がオンライン開催となったため旅費が不要となった。その予算は新規に製作する軟鉄ヨークの材料及び加工費,及び着磁実験で使用する磁場センサや液体窒素の購入費に充てる予定である。
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