研究課題/領域番号 |
20K04457
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
桶 真一郎 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (20362329)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太陽光発電システム / 太陽電池モジュール / バイパスダイオード / 故障検出 / 部分影 / 電流-電圧特性 / クラスタリング |
研究実績の概要 |
2021年度には,火災事故が発生した太陽光発電設備から入手したバイパスダイオード(BPD)のさまざまな故障状態を報告するとともに,実際の故障BPDを内包した太陽電池(PV)アレイのI-V特性に及ぼす部分影の影響を調べた。 まず,実際に雷被害を受けた茨城県の太陽光発電設備かPVモジュールやBPDの提供を受け,それらの特性を調べた。本研究では164個のBPDを対象とし,それらのI-V特性を計測した。その結果,順方向・逆方向ともに正常なBPDと同様の特性をもつものが115個,短絡しているが順方向にややダイオード特性の痕跡が見られるものが6個,同様の特性だが逆方向の抵抗がさらに小さいものが10個,ダイオードとしての特性を完全に失い抵抗と同様の特性をもつものが33個みつかった。 次に,短絡故障したBPDを含むPVアレイ上で部分影を移動させながらI-Vカーブを計測し,その時間的変化と影の位置との関係に基づく短絡故障BPDの検出を試みた。PVモジュールを3枚,直列接続したPVアレイを製作し,そのうち中央の1枚のBPDを実際の太陽光発電設備から取得した短絡故障BPDに交換した。そのPVアレイ上で部分影を移動させながらI-Vカーブを計測した。その結果,短絡故障BPDを備えたPVモジュール上に影が生じているときはI-Vカーブに段差がないためFFは高く,それ以外のPVモジュール上に影が生じているときはI-Vカーブに段差が生じ曲線因子(FF)が低下することがわかった。また,短絡電流とFFとの関係を図示すると,短絡故障BPDを含むPVアレイにおいてはプロットが2つのクラスタに分かれることを確かめた。このようなクラスタは,機械学習によって容易に検出が可能であり,本研究で提案している故障検出手法が実現可能であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度には,本研究の基礎データである故障BPDを含む太陽光発電システムの発電データを取得することを予定していた。まず,実際に火災が発生した茨城県のメガソーラー発電所から太陽電池モジュールに搭載されていたBPDを収集し,それらの電流-電圧特性を計測して故障状態を調べた。また,複数の太陽電池モジュールから成る太陽電池アレイを構築し,搭載しているBPDの状態による発電特性の変化を調べた。この実験は,実際の太陽光発電システムの運転状態を模擬するため,屋外の実験フィールドにおいて実施した。これらの実験により,短絡故障BPDの抵抗値の分布が明らかになるとともに,短絡故障BPDならびにそれを含む太陽電池アレイの電流-電圧特性モデルを作成できた。 2021年度には,故障BPDを含むPVアレイ上に部分影が生じた際の発電特性データを収集し,それらのデータに基づき機械学習によってBPDの故障を検出できることを実証することを予定していた。まず,故障BPDを含むPVアレイ上に部分影を生じさせ,それを移動しながらI-Vカーブを計測した。この実験により,これ以降の検討を進めるうえで重要な故障BPDを含むPVアレイ上に部分影が生じた場合の電流-電圧特性データを蓄積することができた。次に,I-Vカーブから得られた短絡電流,最大電力点,およびFFを仮想空間中にプロットして,それらを機械学習によってクラスタリングした。その結果,故障BPDの有無によってクラスタの態様が異なることを明らかにした。 このように,当初の予定通り研究が進捗しているため,「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には,故障BPDを含むPVアレイ上で部分影が移動した場合の電流-電圧特性を用いて,故障BPDの有無を判定するとともに故障BPDの位置を特定する技術を機械学習プログラムを利用して開発する。また,これまでに実証した機械学習プログラムを用いる太陽光発電システムの故障発見手法を実装した故障検出器を構築し,その性能評価を実施する予定である。実際の太陽光発電設備を模擬した装置を用い,その運転中に部分影を移動させた場合の発電特性データを入力することで自動的に故障を検出する装置あるいはプログラムを作成する。クラスタリング手法としては教師なし学習とし,k平均法,階層クラスタリング,およびDBSCANのいずれかを採用することとし,それらの性能を比較・検討する。 2020~2021年度には実際のメガソーラー発電所等での現地調査を実施することができなかった。新型コロナウイルス感染症の状況にもよるが,実施可能な状況になれば現地調査を実施する予定である。それが困難な場合は,これまでに構築した研究者間ネットワークを活用し,故障太陽電池モジュールや故障BPDなどの提供を受けることも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により,情報収集や成果報告のために出席予定であった学会や研究会等がオンラインになったため,旅費として計上していた予算の一部を前倒しして物品費として活用した。2022年度にはいくつかの学会や研究会が現地開催される予定なので,次年度使用額はその旅費の一部として使用する計画である。
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