研究課題/領域番号 |
20K04464
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
松本 正行 和歌山大学, システム工学部, 教授 (10181786)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光ファイバー通信 / 直接検波 / 位相変調 / 位相再構成 / 強度輸送方程式 / Gerchberg Saxton アルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究では、イメージングの分野で用いられている位相再構成手法を高速時系列光信号の直接検波位相読み取りに適用し、新たな高速光信号受信方式を見いだすことを目的とした研究を行う。 位相再構成手法として、1.受信信号光強度波形と受信信号光を受信機内で分散させた後の強度波形とから、強度輸送方程式(TIE)を解くことによって受信信号光位相φを計算する非反復手法と、2.受信機内での分散前後の強度波形から誤差低減反復アルゴリズムを用いて位相φを求める手法の2種類の方法の有効性を検討する。 令和3年度では、1.について、変調形式として直交周波数分割多重(OFDM)変調を用いた場合の複素振幅再構成特性を理論的に解析し、単一キャリア変調信号の複素振幅再構成(位相再構成)特性との違いを明らかにした。OFDM変調を用いる場合は、単一キャリア変調を用いる場合よりも信号のピーク対平均電力比が大きいため、TIEを用いて正しく位相を再構成するために信号に重畳する直流成分電力値を大きく選ぶ必要があることを示した。その一方で、OFDM変調を用いる場合は、信号再構成誤差の発生がキャリアとの周波数差が小さなサブキャリアに集中するため、キャリアからの周波数差が大きなサブキャリアの変調多値度をあげることによって、信号帯域幅が同一の場合のデータ伝送速度を単一キャリア変調を用いる場合よりも大きくできる可能性があることを示した。 2.について、直接検波受信後の電気信号処理によって多値振幅変調光信号の分散補償を行うことを想定し、PAM4光信号の受信強度波形から受信光位相を再構するシミュレーションを行った。受信機内の複数の分散素子前後の3つ以上の強度波形を用いると同時に、送信信号に対する拘束条件(例えば送信信号の位相が一定)も加えて反復計算を行うことにより、少ない計算量で誤差が小さい信号再構成が可能となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受信信号光強度波形と信号光を受信機内で分散させた後の強度波形とから、強度輸送方程式を解くことによって受信信号光位相を計算する非反復手法と、2つの強度波形から誤差低減反復アルゴリズムを用いて位相を求める手法の2種類の方法について、理論的な研究を進めている。 前者については、令和2年度に単一キャリア変調変調信号の場合の位相再構成特性を明らかにし、令和3年度にマルチキャリア変調の代表例であるOFDM変調信号の位相再構成特性を明らかにした。非反復的な信号再構成では、1回の計算処理によって直接検波によって取得した強度波形から信号位相を読み取ることができ、短い信号処理遅延で伝送データを得ることができるが、検波信号に重畳される電気雑音が信号再構成誤差に大きな影響を及ぼし、信号検出の信号対雑音比が大きいことが必要であることがわかってきた。後者については、信号再構成のために反復計算が必要であり、伝送データを得るための信号処理遅延が大きいことが問題となる。受信機内で複数の分散素子を用いて取得する強度波形の個数を増やし、さらに、送信信号が満たす既知の条件を利用することによって所望の再構成誤差を得るための反復回数および計算量を低減できることを見出している。 伝送実験に関しては、毎秒10ギガビットのオンオフ変調(OOK)信号の位相再構成および分散補償実験に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
光信号を直接検波することによって取得される強度波形から光信号の位相を計算によって求める光受信方式について、様々なアルゴリズムが提案されつつある。本研究で提案し検討を進める方式の特徴と優位性を明確にするための検討を引き続き行う。TIEに基づく非反復的な信号再構成手法では、信号検波時の電気的な雑音の影響が大きいことが分かりつつある。反復計算に基づく複素振幅再構成における雑音の影響を調べるとともに、反復計算の収束速度を上げるためのアルゴリズムの検討を行う。 実験に関しては、OOK信号、PAM4信号、および位相変調信号の伝送および複素振幅再構成実験を、10ギガBaudの伝送速度で実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2、3年度内に出席を予定していた国内および国際会議がオンライン開催となったため、出張旅費の支出がなくなった。令和4年度内の情報収集および成果発表のための学会参加の回数を当初予定よりも増やすとともに、伝送実験のための備品および消耗品を令和4年度に購入する。
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