研究課題/領域番号 |
20K04470
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
高橋 賢 広島市立大学, 情報科学研究科, 准教授 (60359106)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GNSS / 準天頂衛星 / 災害・危機通報 / L1S |
研究実績の概要 |
日本の内閣府が運用する準天頂測位衛星「みちびき」は、GPS(Global Positioning System)のような位置推定に資する信号だけなく、その測位精度を高める補強メッセージや、災害や危機に関する緊急メッセージも放送している。本研究課題では、この災害・危機(disaster and crises: DC)通報を低消費電力かつ高信頼に移動受信できる方法を研究する。このDC通報は、測位補強信号(L1S信号)に重畳して伝送されるために、連続して受信することを前提に設計されている。本研究は、例えば子供の見守り端末のような小さな機器においても、長期にわたり電池充電を行うことなく、自己位置と緊急情報との両方を取得し続けることのできる学術的方法の結論を得ることを目標にしている。 当該年度は、DC通報メッセージが送信されないであろう瞬間においてL1S信号受信機電源をオフにする間欠受信を中心に研究した。具体的には、(1) その基礎データの収集、(2) 高精度に位置を推定する方法、および、(3) 受信機のプロトタイプ開発の準備を実施した。緊急性の高い災害メッセージ、例えば、震源、震度、降灰に関するものは、同一メッセージがくり返し伝達されることは容易に想像できるが、その具体的な継続時間や間隔を過去アーカイブから求めた。本来、みちびきは測位を提供する衛星であるので、その精度を高める信号受信のデモンストレーションを実施した。さらに、ソフトウェア記述により高度な受信機動作を定義できるソフトウェア無線により、衛星からの電波を受信した。ノウハウを蓄積して、高度な受信機動作を実現し、ひいては災害情報の確実な伝達により社会に寄与することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1.従来の衛星測位受信方法と比較して、その平均消費電力を削減できるDC通報の間欠受信方法、2.受信電波強度が大きく変化する移動受信環境下においても、DC通報信号を確実にキャッチできる信号追従方法、および3.測位信号受信、補強信号受信、およびDC通報信号受信の協調動作による、低消費電力かつ確実に動作するL1S信号受信機構成方法に関する学術的結論を得ることを目指している。 当該年度は項目2.を中心に研究を実施した。具体的には、(1) アーカイブデータを用いたDC通報内容の統計解析、(2) 高精度補強信号の受信、(3) ソフトウェア無線機による衛星信号受信、を実施した。 これまでの解析結果から、信号そのものよりもむしろ、その通報統計を活用する方が、より平均消費電力を削減できる見込みを得ている。そこで、一定時間の受信機動作と一定時間の休眠を交互にくり返す間欠受信のパラメータを得るために、DC通報アーカイブデータからDC通報の平均再送回数や再送時間の統計を得た。例えば、震源、震度、降灰のメッセージ伝送については、同一内容が1,000秒オーダーにわたりくり返し伝送されることや、対象地点の頻繁な追加削除によりメッセージ伝送再送間隔が大きく揺らぐことを明らかにした。これらの成果を電子情報通信学会コミュニケーションシステム研究会、スマート無線研究会、および、測位航法学会ニューズレターにて公表した。 また、Allystar社の衛星信号受信モジュールTAU1302を用いて、測位補強信号の移動受信実験を行い、それを用いた高精度測位を実施した。その手順や成果を高精度衛星測位サービス利用促進協議会講演会にて講演し、およびエンジニア技術雑誌「トランジスタ技術」2022年2月号、3月号、および4月号に寄稿した。 また、機器作成工具を整備し、ソフトウェア無線機による衛星信号受信を行った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの遅れを今年度に取り戻すことができたと考えている。今後は、当初の予定通りに、低消費電力かつ確実に動作するL1S信号受信機構成方法に関する学術的結論を得る計画である。 また、これまでの研究成果をまとめて、ジャーナル論文掲載を目指す。研究を通して作成したソフトウェアやハードウェア作成データについては、GitHub等のオープンコミュニティへの提供により、広く社会に還元する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延により、研究成果発表機会の多くが失われたために、申請した旅費が使用できなかった。また、実験に用いる半導体が入手できずに、申請した物品費の一部が使用できなかった。 次年度は、移動制限が解除され、また、半導体入手困難も解消される見込みである。翌年度分として請求した助成金を活用して、機能試作、実験、および研究成果公表を実施する。
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