本研究では,マルチスキャニングビームによりサービスエリアをカバーするリフレクトアレーを用いることによりTx,Rxをそれぞれ1式のアンテナで構成する新方式の衛星通信用アンテナを提案し,その実現性について研究している.2022年度においては,下記の研究成果を得た. (1)2021年度のマルチスキャニングビームの試作結果において,H偏波の開口能率が低かった.電磁界シミュレータを用いたフルウェーブ解析により原因を究明したところ,反射素子を構成する金属導体間の間隔が狭すぎて,測定周波数においては複数本の導体が1本の導体に見えていたことが原因であることがわかった.導体間の間隔を適切に選んでフルウェーブ解析したところ,H偏波のみならずⅤ偏波においても開口能率が大幅に改善され,周波数帯域において60%を実現できることがわかった. (2)(1)の結果に基づいて,1層構造,2層構造のリフレクトアレーを試作した.ただし,測定装置を借用する予定の三菱電機の事情により,測定は2023年度に実施することになった. (3)リフレクトアレーの周波数帯域を画期的に広くする方法として,一次放射器の位相中心位置の周波数特性を制御することを考案し,基礎実験によりその妥当性を確認した.その成果を基に2023年度からの科研費に応募し,採択された. 研究期間全体を通しては,シミュレーションにおいては所望のマルチスキャニングビームアンテナの開発が予定していたとおりの性能を発揮することを確認でき,その実現に大きく前進したと考えている.ただし,測定による検証は期間内に実施できなかったが,2023年度からの科研費の研究と合わせて実施する.
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