研究課題/領域番号 |
20K04492
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
小西 たつ美 愛知工業大学, 工学部, 教授 (00340159)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | MIMO / 高速移動通信 / ノンコヒーレント / シューベルト胞体分割 |
研究実績の概要 |
本研究は、複数の送受信アンテナを利用するMIMO(multiple-input multiple-output)無線通信方式において、送信アンテナと受信アンテナが構成する信号空間や、時刻・周波数などの各成分に対し、代数や幾何(特に多様体)の性質を活用することで、通信システムの性能を向上させる、符号化技術の検討を目的としている。 当該年度は、グラスマン多様体が重複なくシューベルト胞体で分割される性質を利用した、高速移動体通信に有効なMIMO符号化方式の研究を行った。高速移動体通信では、通信路情報を正しく取得することが難しい。そこで、通信路情報を必要としないノンコヒーレントMIMO通信が提案されており、中でもグラスマン多様体を用いる方式の有効性が示されてきた。しかし最も適切な手法でも、正規化ドップラー周波数fdTsが0.03程度までが、正しく通信できる限界であった。一方、今回我々が開発した手法は、fdTsの変動で誤り性能が変化せず、fdTsが0.1でも正しく通信が行えるという、画期的な手法となっている。 提案手法では、二つの階層を持つ多重解像度MIMO通信を想定している。まず、低解像度の送信情報によって、グラスマン多様体を分割している複数のシューベルト胞体の中から一つを選択する。次に、高解像度の送信情報により、差動QPSKの送信シンボルを求め、そのシンボルで、低解像度の情報で選択したシューベルト胞体の行列要素を書き換え送信する。受信側ではGLRT復号により送信されたシューベルト胞体を判別後、差動QPSKのシンボルを復号している。また、提案手法において、低解像度の情報が、なぜ非常に激しい通信路変動においても通信可能となるかについて理論的に考察し、コンピュータシミュレーションで誤り率の評価を行った。得られた結果は現在論文として投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、多様体の性質を上手く活用したMIMO符号化手法の提案を行うことで、一つの突破口が開けたと考えている。従来技術の符号化変調と今回提案したシューベルト胞体分割による手法との違いが明確化したことで、この性質を用いた適切な符号化の検討に踏み込めると考えている。特にこれまで実現が困難であった高速な移動通信における有効性は、予期せずに得られた大きな成果である。しかしまだ、当初の計画以上には研究は進んでいないため、(2)のおおむね順調に進展している、を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず当該年度で提案した手法において、まだ検討の余地が残っている課題に取り組む予定である。例えば、QPSK以外の信号点配置の適用や、低解像度情報ビットのシューベルト胞体へのマッピング手法の検討を行う。さらに、低解像度と高解像度の両方の情報の送信の信頼性を高める手法の研究を推進していく。そのためには、シューベルト胞体分割の間の距離をどう決定するかの検討や、その距離を最大化する符号化の提案が必要となる。今後は、それらについて研究を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナの影響で、オンラインでの学会活動が多く、旅費の支出が予定より、かなり少なくなってしまったのが、最大の理由である。今年度もまだ、新型コロナの影響が続くと思われるが、感染予防に十分注意し、積極的に活動していく予定である。
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