研究課題/領域番号 |
20K04494
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
三好 誠司 関西大学, システム理工学部, 教授 (10270307)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 統計力学 / 信号処理 / 適応信号処理 / クリッピング型飽和特性 / 飽和特性 |
研究実績の概要 |
これまで研究代表者は統計力学的手法を用いた非線形適応信号処理の挙動解析に取り組んできた。その際、非線形な入出力特性を有する未知システムのモデルや適応フィルタとして、特にボルテラフィルタを扱ってきた。たしかにL次ボルテラフィルタは入力信号のL次成分に対応する係数を有するため、非線形関数のテーラー展開のL次の項を表現することができる。しかし、適応信号処理システムにおいてよく現れる飽和特性などの非線形性を表現するためには多くの次数のボルテラフィルタが必要となるため、これを使って現実の非線形性を表現することは困難である。このような議論を重ねていく過程で、クリッピング型飽和特性などの区分線形な非線形性を有する要素が適応システムに含まれる場合についても、統計力学的手法が適用可能であることが明らかになった。すなわち、二種類の巨視的変数(未知システムと適応フィルタの類似度および適応フィルタのノルム)を導入したうえで、非線形要素を含む適応信号処理システムの二乗平均誤差(MSE)をガウス積分の実行により解析的に求めた。さらに、巨視的変数の動的ふるまいを記述する連立微分方程式をタップ長が無限大の極限を仮定した場合に成り立つ自己平均性に基づき決定論的に導出した。導出された連立微分方程式は解析的に解くことはできないが、定常解析、漸近解析、数値解析を組み合わせることにより、クリッピング型飽和特性の飽和値(S)には臨界値(Sc)が存在するというきわめて興味深い現象を理論的に明らかにした。すなわち、S>Scの場合にはシステムは平均二乗安定であること、S<Scの場合には適応フィルタが発散すること、しかしその際にもMSEは収束し、その収束値はステップサイズによらないことを理論的に明らかにした。さらに、Scの厳密解を解析的に求めることに成功した。これらの結果は計算機実験との比較によりその妥当性が検証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィードフォワード型能動騒音制御は適応フィルタの後段に二次音源スピーカが設置され、その出力が二次経路を経てエラーマイクロホンに入力される。適応信号処理システムとしては、適応フィルタ出力がクリッピング型飽和特性を有するようなモデルで表現される。このようなシステムについて、そのふるまいを統計力学的手法を用いて理論的に明らかにすることができた。その結果、クリッピング型飽和特性の飽和値(S)には臨界値(Sc)が存在し、S>Scの場合にはシステムは平均二乗安定であること、S<Scの場合には適応フィルタが発散すること、しかしその際にもMSEは収束し、その収束値はステップサイズによらないことなどきわめて興味深い現象を理論的に明らかにすることができた。さらに、Scの厳密解を解析的に求めることに成功した。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度(2021年度)は適応フィルタの出力部にクリッピング型飽和型の非線形性が存在するモデルの解析を行った。その際に用いられた解析の手法は不感帯型非線形性や符号関数型非線形性など他の種類の非線形性に対しても適用可能である。また、これらの非線形性が適応フィルタ側ではなく未知システム側に存在する場合についても適用可能である。今後はこれらの解析計算を網羅的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:学内経費等の有効活用により、物品費を使用する必要がなくなったことと、新型コロナウイルスの流行により多くの学会がオンライン開催に切り替えられた結果、旅費が必要なくなったため。 使用計画:2022年11月にニューデリーで開催される国際会議や同年12月に新潟で開催される学会で成果の発表を行うための旅費として使用する予定である。
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