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2021 年度 実施状況報告書

マルチメディア通信QoEにおける統計的因果推論法の枠組み構築

研究課題

研究課題/領域番号 20K04495
研究機関公益財団法人名古屋産業科学研究所

研究代表者

田坂 修二  公益財団法人名古屋産業科学研究所, 研究部, 研究員 (80110261)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードマルチメディア通信 / QoE / 統計的因果推論 / ベイズ統計モデル / 構造方程式モデル / MCMCシミュレーション / インターネット高度化
研究実績の概要

前年度末にACMTOMMに投稿していた論文を改善発展させた.その成果は,“10.研究発表[雑誌論文]”に記載のように,2022年1月に掲載された.すなわち,力覚・音声・ビデオの三感通信における多次元QoE(Quality of Experience)を,3個の構成概念(音声ビデオ品質AVQ,力覚品質HQ,ユーザ体感品質UXQ)で表現するベイズ統計構造方程式モデル(SEM)として定式化し,3構成概念間における因果方向確率を導出した.その結果,因果方向確率P1=P[AVQ→UXQ←HQ],P2=P[AVQ←UXQ→HQ]が,音声・ビデオと力覚ストリーム間の遅延差が零のときP1>P2であるが,遅延差がある値まで増大すると確率の大小関係が逆転し,更に遅延差が大きくなると再び逆転して元に戻るという現象を発見した.関連研究として,2007年の英国マンチェスター大学によるimpact-perceive-adapt現象がある.これは,ビデオと力覚間の遅延差がある程度大きくなると因果方向が消失する(breakdown of the perception of immediate causality)という仮説である.本研究成果は,その数理的証明になるとともに拡張形にもなっている.因果方向のフリップフロップ的動作は,自然科学や社会科学における従来の因果関係には見られない新しい発見である.
続いて,QoEに加えてQoS(Quality of Service)情報を組み込んだベイズ統計モデルの拡張にも着手した.まず,QoS情報が,力覚・音声・ビデオ三感通信における多次元QoEの予測に寄与するかという課題に取り組んだ.SEMモデルにQoSパラメータを組みこんだ拡張SEMモデルとともに,従来のロジステック回帰による1次元QoEモデルの適用も検討した.現在.更なる考察を行っているところである.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

「2020年度の研究実施計画」の成果をACMTOMM(ACM Transactions on Multimedia Computing, Communications and Applications)論文として投稿していたが,その改訂過程において,因果方向のフリップフロップ的動作の発見にまで研究が進展した.この進展は,交付申請書・2022年度研究計画課題として記載していた“因果関係の質(時間構造劣化)と因果関係伝達時間がQoEに及ぼす影響の解明”に相当する.この解明をACMTOMM論文に取り入れて2022年1月に出版できたという意味で,研究は,当初計画よりも進んでいる.
一方,2021年度計画のアプリケーション層以下のQoSパラメータ集合を取り入れた拡張モデルの構築については,QoSからQoEの予測モデルの研究を実施して一応の結果は得られた.しかし,まだ検討すべき課題が残っている.更に,QoSからQoEへの因果効果のモデリングについては,多くの予備的な検討を行ったものの,未だまとまった成果が得られていない.従って,2021年度研究計画の実施は,予定よりも遅れている.
2022年度計画の前倒し実施と,2021年度計画の遅れとの両方を勘案して,現在までの研究は「おおむね順調に進展している」とした.

今後の研究の推進方策

今年度の“QoSパラメータを取り込んだQoEモデル”の研究により,QoEとの関係におけるQoSの数理的取り扱いの困難さが浮き彫りになった.
QoEとQoSとの関連性とその数理モデル化については,以前から多くの研究が行われており,いわば,QoE分野における古典的問題である.しかし,従来研究は,通常,単一尺度QoEをQoSから予測する問題を扱っている.多次元QoEをQoSから予測する問題に取り組んだ研究は,ほとんど見られない.更には,QoSが多次元QoEにどのような因果効果を及ぼすかについての従来研究は皆無である.
本研究では,今年度に開始したQoSパラメータを組みこんだ拡張SEM・QoE予測モデルとロジステック回帰による1次元QoE予測モデルの研究を継続し,QoSを利用した多次元QoE予測問題の解決を目指す.更には,QoSからの多次元QoEへの因果効果問題解決の手掛かりも見出す努力をする.
これらの研究の結果として,QoE向上方策としてこれまでヒューリスティックに提案されている方式のいくつかの仕組みが解明される可能性がある.更には,本研究の成果を活用して,因果関係を考慮に入れた,新たなるQoE向上方策を探ることも試みる.

次年度使用額が生じた理由

本研究遂行の主要手段であるベイズ統計モデルMCMC(Markov chain Monte Carlo)シミュレーションの迅速かつ円滑な実施のためには,強力な計算パワーが必須である.近年のPCは,その計算能力が年毎に急激に向上している.この種の新型PCを利用すれば,より多様なデータを迅速に得ることができる.
2022年にはインテルCore i9-12世代CPUを実装したPCが販売開始となり,この仕様のPCとしては比較的安価に取得できるようになった.
2021年度研究費の残額は,このPC取得費用の一部に充てる予定である.

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] An Empirical Method for Causal Inference of Constructs for QoE in Haptic-Audiovisual Communications2022

    • 著者名/発表者名
      Shuji Tasaka
    • 雑誌名

      ACM Transactions on Multimedia Computing, Communications and Applications

      巻: 18 ページ: 1,24

    • DOI

      10.1145/3473986

    • 査読あり / オープンアクセス

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公開日: 2022-12-28  

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