本研究課題では,実装状態の素子や配線間の意図しない誘導結合(磁界結合)を測定により把握するシステムの開発を目的として,近傍磁界情報の機械学習を利用した誘導結合推定方法について検討した。初年度(令和2年度)および令和3年度は,(a) 単純な1本のマイクロストリップ線路(MSL)の近傍磁界情報の機械学習を利用して,MSLを等価磁界源モデル化する方法を提案した。さらに,その手法を研究室で構築した近傍磁界測定装置と組み合わせ,(b)誘導結合量を推定するシステムについて検討した。しかし,(a)については,リターン電流が理想的ではない配線等に適用した場合について検証が必要であった。(b)については,実証実験が必要であった。 最終年度(令和4年度)は,初めに,グラウンド線の位置が異なる平行配線の磁界源モデル化について検討した。プリント回路基板上に,信号線とグラウンド線の位置関係が異なる複数の平行配線を試作し,その近傍磁界測定を実施した。1次元の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用して,平行配線を等価磁界源モデル化した。推定した磁界源モデルから算出した磁界分布は,測定値とおおよそ一致しており,リターン電流の位置が理想的ではない実際の素子・配線に対しても提案手法が有効である可能性を示した。次に,提案する磁界源モデル化手法と近傍磁界測定装置を組み合わせたシステムついて,実験および電磁界シミュレーションを用いて検討した。線路間距離の異なる平行2線MSLを試作し,その近傍磁界分布を測定した。測定値を利用してそれぞれのMSLを磁界源モデル化し,モデル間の磁気結合係数を算出した。一方で,実験を模擬する電磁界シミュレーションも実施した。その結果,推定値と電磁界シミュレーションから算出した値は10%以内で一致し,高い精度でMSL間の誘導結合を推定可能であることを示し,研究課題の目的を概ね達成した。
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