食品の品質管理や食品開発の味の評価方法には官能評価が用いられている.官能評価を行う人の体調や感性によって評価結果が変わるため再現性に欠ける.そのため,味を数値化して客観的な評価を可能とする味覚センサが利用されている.本研究は,従来の味覚センサでは評価が困難なヒトが感じる味の経時的変化を測定できる,新規味覚センサを開発することである.方法としては,マイクロ流路を用いて溶液を脂質高分子膜上に送液することで,脂質高分子膜に味物質を常に供給し,膜電位変化を連続的に測定することで,あらたに膜電位の時系列データを取得する.この時系列データから,味の経時的変化として新たな味の情報を抽出することで,人の感じる味をより厳密に表現できると考えた.本研究期間においてマイクロ流路味覚センサの開発をおこない,味サンプルに対する膜電位変化を連続測定することで味物質の脂質高分子膜への吸脱着の量や速度に関して評価を行った.具体的には,PDMS流路を設計し,味物質に対する脂質高分子膜の膜電位変化を計測可能なマイクロ流路味覚センサの開発に成功した.渋味物質であるタンニン酸サンプルでの膜電位測定を行ったその結果,味物質の供給量に対する吸脱着の量や吸着速度の関係性を示すことができ,ヒトが感じに味の余韻や立ち上がりといった慶次変化を数値化できる可能性が示された.また,先行研究との比較により,味物質の吸着量が従来の味覚センサより多くなっており,より高感度で味覚測定を行うことができる可能性が示唆された.今後の方針として,より詳しく味物質の吸脱着に関する調査を行い,これを官能評価と合わせることで味の経時的な変化を数値化する味評価システムの構築を行う予定である.
|