燃料電池は深刻化する地球温暖化,エネルギーセキュリティの確保,新規産業創出などの課題に対応できる有力な技術である.この燃料電池の普及拡大のためには,燃料電池の発電性能・寿命の更なる向上が必要である.発電中の燃料電池内部の電流分布は,その性能・寿命に大きく影響を及ぼすが,燃料電池の構造を変えずに,また発電性能に影響を及ぼさずに,その電流分布を非接触で計測できる有効な手法がない.本研究では,発電中の固体高分子形燃料電池周囲の磁界を高感度3軸磁気センサ68個で測定し,その磁界から逆問題解析により燃料電池内部の電流分布を推定することを目標とした. 最終年度の2022年度では,膜電極接合体(発電素子)の電極面積が100cm2(10㎝×10㎝)のラボサイズの燃料電池実機を用いて実証実験を実施した.この実験では,様々な位置に欠陥個所(寸法1cm×1cm)を故意に設けて,その欠陥個所の推定電流値がゼロにどれほど近いかにより評価した.逆問題解析にAIの機械学習に属するスパースモデリング理論を適用することにより,本研究にて実施した電極面内の全ての欠陥位置の電流値を0.00Aと推定することに成功した.更に,電極面積を4倍に拡大した場合や,2層の膜電極接合体を積層した燃料電池スタック内部の欠陥位置の特定の可能性も得られた. 研究期間全体の前半において,スパースモデリング理論を適用する際に問題となる変数の設定方法を,燃料電池内部の電流パスを模倣した模擬燃料電池を用いて検討し,種々の条件に適用可能な決定手順を提案した.研究期間後半では,本手法を燃料電池実機に適用し,上述の成果が得られた.本手法では,電極面積の4%の欠陥面積を特定でき,現時点では国内外で最高の精度が得られている.
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