研究課題/領域番号 |
20K04513
|
研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
相津 佳永 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (20212350)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 皮膚計測 / 分光反射率 / モンテカルロシミュレーション / 吸収係数 / 散乱係数 / データベース |
研究実績の概要 |
令和3年度は,前年度までに構築した第一世代となるVISおよびNIR領域の分光反射率データベースを活用して,実測スペクトルにマッチするデータをマイニングするアルゴリズムの開発を重点的に実施した.これまでVISでは,吸収と散乱の組み合わせが異なる複数のケースで類似のスペクトル形状が存在することから,構築したデータベースから唯一のスペクトルを特定する過程で失敗を繰り返してきた.この要因をシミュレーションの多種多様なスペクトル形状に基づき分析した結果,VIS領域における光吸収の減少と光散乱の増加がスぺクトルに対して類似の形状変化を引き起こしていることを突き止めた.また,この事象はNIRでは観測されない.これは光吸収成分が異なる物質であることから予測した通りであった.そこで,VISでマッチしたスペクトルの複数解に紐づく条件でNIRデータベースから検索したスペクトルを抽出し,それに紐づく条件で再びVISデータベースからスペクトルを抽出するイタレーションアルゴリズムを新たに開発した.この時,二乗平均誤差(RMSE)が最小になるスペクトルを決定する過程で,解の発散を抑制し収束解が導かれるような拘束条件を調べた結果,交互に繰り返す際に変数値をずらしながらイタレーションする方式が効果的であることを明らかにした.また,局所解への対策としてイタレーション方向を反転する機能,ガウス誤差の付加を選択設定する機能を付加した. 構築したシステムで所望のスペクトルを抽出する際の特性を確認するため,当初は寒天型人工皮膚ファントムの活用を想定していた.しかし,変動誤差の影響を考慮し,シミュレーションで生成したテストデータを用いて特性確認を行った.これによりデータベースのイタレーション回数,皮膚変数出力値の判定基準,変数変化範囲を見直し,最適化を行った.今回改良したデータベースを第二世代とした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,皮膚組織の詳細な平行層状モデルを用いて,モンテカルロ法による数値計算で,皮膚表面での拡散分光反射率を生成する技術が基礎になる.この計算には皮膚の各層に固有の光学特性を設定した上で,コンピュータ上で光子を乱数により伝搬させ,その経路とエネルギー減衰を追跡している.そこで計算に必要な層毎の光学特性数値を令和2年度に決定し,計算の実施環境を整えてきた.また,大量のスペクトルを生成する効果的手法として緩和型グルーピング法を導入してきた.構築した第一世代のデータベースを用いて,実測したスペクトルに一致するデータをマイニングする手法として,VIS領域とNIR領域の光吸収特性の差異に着目したクロスマイニング方式のアルゴリズムを開発できたことは計画通りの進捗と判断できる.それに引き続き,データベースの最適化を目指して,条件既知のテストデータを用いて,検索速度,精度等を調査した結果,不適検索率を抑制したことで検索の効率と精度を向上することに成功し,結果として第二世代のデータベースを構築できたことも順調な進展と判断している. 現状では,スペクトルの10nm間隔によって構成される全データで二乗平均誤差(RMSE)を計算し,その最小化によってマイニングを行っている.今後の波長選択化への試行としては,VIS領域内でマイニングに関わる波長帯域を詳細に調べつくし,最も影響の大きい領域を効率的に選び出す方向で,さらにシミュレーションを重ねていく構想を有している.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,構築したデータベースと実測スペクトルにマッチするデータをマイニングするシステムを用いて,VIS波長帯域のフルレンジで探索する基本アプローチをベースとしつつ,二乗平均誤差(RMSE)でスペクトル比較を行う波長レンジをより狭帯域化することを主眼として研究を進める.その作業を効率的に行うために,シミュレーションで得られるスペクトルデータの波長を自動的に,かつ短波長側から順番に間引き削減するバッチファイルを開発する.これをマイニングアルゴリズムに付加する改良を行う方針である.この際に,基本アプローチではVIS領域の400nm-700nmを10nm間隔に基づく31データを使用するが,これを市販のLED光源が有する特定3波長(主にR,G,Bを想定)に追い込む作業が重要になると考えており,この作業に注力したい.スペクトル形状が特に敏感に変動する波長域が存在することがこれまでの研究で分かっており,この情報を活用することで上述の作業が効果的に行えると考えている.これは皮膚組織に含まれる酸化および脱酸化ヘモグロビン色素の極めて特徴的な吸光度スペクトルの形状が根底にあることに着目した推進策である. 波長選択が良好に進展したのち,専用光センサーユニットの開発にシフトする.試作モデルとして光学定盤上で利用できるサイズレベルを目指し,その後モバイル型へ設計変更する計画である.このハードウェアが完成したのち,全体のシステムを統合した場合の評価と必要な改良を経て,データベース,ならびにマッチングによる皮膚状態を表す出力値を提供するユーザーインターフェースを整備し,実用に向けた環境の整備を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に引き続き予定していた国内の調査,成果発表のための出張旅費,国際会議に計上していた旅費が,いずれも開催中止,またはオンライン開催となったことにより,結果として旅費の支出がなかった.また,感染予防のため,作業を依頼するアルバイトの確保が困難となったため,謝金用に計上した額の支出がなかった.論文の異なるジャーナルへの再投稿により査読が続いており,この投稿・掲載料の執行がなされていないため,残額が生じた. 令和4年度には,第2世代のデータベースを複数台の高性能GPU搭載型コンピュータで環境整備することで計算を加速させることを目指しており,昨年度に勝る新たな高性能コンピュータを導入することにした.また,専用センサーユニットの試作には異なる波長条件でのモデルを並行して複数台試みることで作業の進展効率をアップすることを計画しており,そのためのハードウェア部品等に新たな支出を計画している.なお,査読中の投稿論文が採択されれば,支出が遅れていた投稿・掲載料の執行が行われると考えている.
|