研究課題/領域番号 |
20K04521
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
松山 哲也 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 助教 (70347508)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プラズモン共鳴 / ライブセルイメージング / 光毒性 |
研究実績の概要 |
本研究では,表面プラズモン共鳴による蛍光増強効果を利用した高感度ライブセルイメージング装置を開発し,レーザー光照射後の生細胞の動態を詳細に観察することにより,光毒性の発生機構を解明することを目指している.令和4年度には,薄膜作成後の加熱によるランダム金属微粒子構造と電子線描画装置を用いたナノディスク周期パターン構造を持つ生細胞培養基板を完成するとともに,ライブセルイメージング装置を用いて,レーザー光毒性の定量的な比較,毒性発生メカニズムの検討を行った. 細胞培養基板の作成においては,まず,生体適合性を考慮して金のランダム微粒子構造を持つ細胞培養基板を作成した.初期膜厚,加熱温度を最適化することにより,ガラス基板を変形させることなく観察する蛍光タンパク質の蛍光増強に適したプラズモン特性を持つ細胞培養基板を開発した.さらに金を再蒸着,再加熱することにより金微粒子構造の密度を高め,プラズモン特性を改善できることを見出した.さらに,電子線描画装置を用いてナノディスク周期パターン構造を持つ細胞培養基板の開発を行った.表面金属層を用いたリフトオフ性の改善,ナノディスク構造作成後の熱処理によるプラズモン特性の改善およびディスクサイズ制御によるプラズモン共鳴波長のチューニング特性について明らかにし,細胞培養基板としての最適化を行った. 光毒性の定量評価においては,より広い照射強度範囲において,レーザー光照射部への細胞増殖核抗原(PCNA)の集積度評価を行い,24時間細胞生存率との比較を行った.その結果,波長375nm,405nmのレーザー光の照射部には同程度のPCNAの集積が観測されたが,照射後の細胞生存率は375nmレーザー光照射の場合に低くなる結果が得られ,半数致死に至る照射光量の結果も含め,波長375nmと405nmのレーザー光照射では光毒性の発生機構,修復機構が異なる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度には主にランダム微粒子構造,ナノディスク周期パターン構造を持つ細胞培養基板の開発および熱処理などによるプラズモン特性の改善,最適化を行った.初期に作成した基板では,ランダム微粒子構造,ナノディスク周期パターン構造を持つ基板ともにFDTD法を用いたシミュレーション結果に比べプラズモン共鳴が弱く,プラズモン特性の改善が必要になった.ランダム微粒子構造については,金を再蒸着,再加熱することにより微粒子のサイズを変えることなく,微粒子間に新たな微粒子が形成され,密度上昇によりプラズモン特性を改善できることを示した.また,ナノディスク周期パターン構造を持つ基板においては,熱処理により,粒界の減少によるプラズモン特性の改善が得られること,また熱処理温度,処理時間に対する依存性を詳細に調べ,最適化することにより,ナノディスク半径を制御でき,描画後の熱処理により増強する蛍光タンパク質の蛍光波長に応じたプラズモン共鳴波長のチューニングが可能であるという新たな発見を得た.しかしながら,作製した細胞培養基板上で実際に細胞培養を行い,蛍光顕微鏡を用いて細胞観察を行うことにより蛍光増強効果を調べることについては,コロナ禍の影響もあり,細胞培養環境の整備や培養技術の習得に遅れが生じ,令和4年度に実施できておらず,期間延長した令和5年度に行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度においては,これまでに得た知見を基に,金属ランダム微粒子構造,金属微粒子パターン構造を持つ細胞培養基板のプラズモン特性のさらなる改善を行うとともに,開発した細胞培養基板上で実際に細胞培養を行い,ライブセルイメージングにより得られる蛍光強度を比較することにより,表面プラズモン共鳴を用いたライブセルイメージング装置の評価を行う.さらに,蛍光増強度の測定結果から,蛍光タンパク質の蛍光増強に適した構造のさらなる最適化を図り,光毒性の定量評価の研究を行う.また,研究期間中に得られた知見をまとめ,学会発表や論文作成を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響による細胞培養環境の構築,培養技術の習得が思うように進まなかったこと,学会へのオンライン参加により旅費が不要になったこと,投稿した論文の掲載料の支払いが年度末までに間に合わず支出が減ったため次年度使用額が生じた.令和5年度において実際の細胞培養,観察に必要な物品の選定を行い支出する予定である.
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