電気電子・機械・生物・化学、社会等、あらゆる物事の運用では、構成モジュール毎のダイナミクスのゲインを調べ、全体の調和が維持できる閾値までのゲインの余裕を計算することが伝統的である。しかし、ゲイン余裕が零であることが多い。そこでシステム制御の先端理論では、ゲインを値から関数へ拡張した非線形ゲインが活用されている。一方で、現社会はあらゆる物事のデータを試行錯誤で統合する実践が現場で行われており、その試行錯誤は非線形ゲインを使っても解決できないことも多い。そこで、本研究は,非線形ゲインの基盤である保存変換を経由せず、ダイナミクスを非対象のまま合成する数理道具を開発してきた。1年目は、複数・多様な各モジュールのエネルギ収支を保存変換で対称性を排除することなしに特徴化し、非対称性を相補的に結合する基本アイディアをまとめた。アイディア創作と有効性の確認には細胞内概日リズムを役に立てたが、2020年度にCOVID-19が広まったことから、細胞内概日リズムよりも感染症モデルに本格的に取り組んだ。2および3年目は、感染力が強い場合は分離モジュールの非線形ゲインの統合は役に立たないことを数理的に突き止めた。そこから符号で非対称な関数を使ったモジュール合成というアイディアの具現化に成功し、微分不可能な混合離変換、リアプノフ関数厳密化、フィードバック活用による準大域化という、保存変換を脱却する3つの手法を開発しした。保存変換を脱却することで捉えることが可能になったダイナミクスの平衡点の移動現象に注目し、平衡点移動を取り込むダイナミクス合成法へと研究の新展開に成功した。また、平衡点移動を保証する積分型フィードバック、遅れに対する性能保証などの研究成果も得た。3年目には国際学会で論文賞のファイナリストに選ばれた。3年目の別の成果が学会で評価され、4年目にシンポジウム大会論文賞(基礎分野)を受賞した。
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