研究課題/領域番号 |
20K04540
|
研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
木許 雅則 日本工業大学, 基幹工学部, 准教授 (80315126)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アクティブノイズコントローラ / パラメトリックスピーカ / 多チャネル制御 / 二次経路変動 |
研究実績の概要 |
ある音に対して同振幅逆位相の振動をもつ別の音を干渉させると,両者は互いに振動を打ち消し合い,音が消去される。この現象を信号処理により実現したものがアクティブノイズコントローラ(以下ANC)である。ANCは主にダクトや工場等の環境変化の少ない場所での騒音除去に利用され,一般的な室内等の利用例は数少ない。本研究では,ANCを一般的な屋内環境で利用可能とする超指向性を持つパラメトリックスピーカを用いた多チャネルシステムを構築し,その理論解析及び実機による消音性能を明らかにする。一般的なANCでは「スピーカから消音点間の伝搬経路(以下二次経路)の変動に対する消音性能の劣化」と「非制御地点での音圧増大」が問題となるが,両者の解決が一般的な屋内での使用には必要である。本研究ではこれらの解決を図る。多チャネルのパラメトリックスピーカから制御音を直線的に消音点へ送出し,それらの合成音で騒音を打ち消す。合成音を用いることでチャネルそれぞれの制御音の音圧は小さく,かつその伝搬は直線的であるため,非制御点への影響を軽減することが可能である。また,二次経路がその音波の直進性により簡易な形式でモデル化が行え,消音点の移動や障害物の発生等で生じる二次経路変動に対してロバストなシステムが実現できる。R3年度は,提案手法のDSP実験システムへの適用を完了し,実環境での各種性能評価を行った。概ね,理論およびR2年度のシミュレーション結果との齟齬はなく良好な結果が得られたが,幾つかの改善点が確認できた。これに対して,二次経路の簡易推定アルゴリズムの改良手法の提案,合成音の理論解析等を行い,消音性能の向上を行った。それらの成果をR3年9月の電気学会 電子・情報・システム部門大会にて発表を行った。また,R3年度までに得られた成果を纏めたフルペーパー論文を執筆中であり,R4年5月中を目処に投稿を予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
R3年度前半は,R2年度に提案した二次経路簡易推定手法及び多チャネル騒音除去アルゴリズムのDSP実験システムへの適用を完了し,種々の条件下における本手法の性能を確認した。単チャネルでは,概ね理論及びシミュレーションから予想される消音性能が確保出来ることを確認した。但し,簡易推定により生成される二次経路モデルが,条件によってはモデル化誤差が増加する傾向が見られたため,R3年度中旬から後半にかけ,様々な環境での直接及び残響音の形状データの収集を行い,その解析結果に基づくモデル化誤差を最小化する新たなモデル生成法を提案した。簡易推定の基本構成に変化は無いものの残響部の正確性が向上し,従来法に対して最大5dB程の消去量向上を実現した。また,DSP実験システムでの実験により,多チャネル合成音の音圧が理論値ほど向上しない場合があることが確認できたため,原因の解明をモデル生成法の導出と並行して取り組んだ。単チャネルの実験では,予測通りの音圧と消去量が確保できるものの,多チャネルの音波を合成すると,スピーカと消音点間の距離や角度により両者の向上量が異なる。パラメータ変化に対するデータを収集・解析することで,チャネル同士の搬送波が非同期であることが原因となり,他方のチャネルの搬送波が可聴音の発生を妨害していることが分かった。環境の限定によりこの問題は発生しないが,汎用性向上のため,搬送波をチャネル間で同期する処理をアルゴリズムへ付加し,問題を解決する予定である。当初の計画では,R3年度中に4ch正四面体プローブの適用により,音情報のみからスピーカと消音点間の距離推定を実現する予定であったが,R2年度完了予定のDSP実験システムへの実装がR3年度へずれ込んだため若干遅れが生じている。正四面体プローブの納入は完了しており,R4年度初旬はこれらの作業に注力する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
4ch正四面体プローブ(テトラマイク)の適用による音情報のみからのスピーカと消音点間の距離推定は,当初の計画ではR3年度中に完了予定であったが,R2年度からの遅れに後押しされる形で若干遅れが生じている。そのため,R4年度初旬は本作業に注力する予定である。本作業に必要な設備であるテトラマイクは,R4年4月初旬に納入されており,現在予備実験を実施している。今後,距離推定アルゴリズムの導出および,そのDSP実装を行い,6月中を目処に本手法の実環境での実験を実施する予定である。テトラマイクは,4つの単一指向性マイクロフォンで構成される4チャネル正四面体プローブである。本研究では,このマイクの構成とパラメトリックスピーカの指向性の高さを利用して,マイク自体(消音点)の位置推定を実現する。各マイクでの観測音は,チャネル毎の音波の影響が大きくなり,消音点の移動に対してチャネル間音圧と位相差の変化が明確に検知できると予想している。これらの変化を精度良く解析出来るかが,本追従手法の性能を左右する。様々な環境,条件下での多くの観測データを取得し,丁寧に解析を行うことで距離推定システムを構築する予定であり,R4年9月中にこの構築を完了することを目標とする。その後,スピーカチャネル数の増加により,合成制御音の音圧が不足する箇所を無くすことで消音範囲の拡大を行う。チャネル数の増加に伴い,チャネル間の搬送波干渉が顕著となることが予想されるが,様々なデータの取得およびそれらの解析によりアルゴリズムの改良を行い,実環境での使用に耐えうるシームレスな消音効果を持つANCシステムの構築をR4年度末までに完了する予定である。また,R4年度が最終年度となるため,これまでに得られた研究成果を国内外の学会にて発表を行い,本研究の総括を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
R3年度に引き続き国際会議,国内学会に対する旅費が発生しなかったこと,および設備備品の4ch正四面体マイクロフォン(テトラマイク)が当初の計画よりも納入が遅れたことなどから,次年度(R4年度)使用分が生じた。4ch正四面体マイクロフォンについては,2022(R4)年4月上旬に納入済みであり,R4年度分から支出することが確定している。また,研究計画では,R4年度はパラメトリックスピーカを複数台追加し,マルチチャネルでの実装および実験を行うが,当初予定の設備品では,音圧が不足することがこれまでの実験で明らかになっているため,パラメトリックスピーカを当初予定のものより上位の仕様へ変更する費用に充当する予定である。また,学会の現地開催も増加傾向がみられるため,最終年度であるR4年度はこれまでの成果を積極的に発表することで,それらの旅費や参加費等に充当する予定である。
|