研究課題/領域番号 |
20K04544
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
平石 邦彦 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (40251970)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 交通流 / 予測モデル / ビッグデータ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,国土交通省航空局が公開している民間航空機の航跡データ(CARATSオープンデータ)を用いることにより,空域交通流の数理モデルを構築することである.R2年度は,線形状態方程式表現を用いたモデルの構築を行った.具体的な手法は以下の通りである.(1) 研究代表者らによる既存結果であるポイントごとのセクター判定アルゴリズムを適用することにより,各時刻におけるセクター内航空機数からなるベクトル(スナップショット)を求める.(2) スナップショットを状態変数ベクトルとするような離散時間の線形状態方程式を導出し,状態遷移行列を状態変数ベクトルの時系列から推定する.多数(数百~数千)の状態遷移行列から代表値を抽出するためにクラスタリングの手法を適用する.(3) 状況に応じて誤差を最小にする状態遷移行列を選択するアルゴリズムを開発する.(4) モデルから計算される状態変数の値を実データと比較し,誤差を評価する. 提案手法の評価は航空管制の単位であるセンターごとに行い,多くのセンターで95%を超える予測精度が得られた.他方,特定の日において予測精度が低い事例が観測された.これは,状態遷移行列が強風などの稀に発生する状況を網羅できていなかったことが原因であると考えられる.稀に発生するケースを拾い上げるように,状態遷移行列の選択方法を改良する必要がある.また,既存研究で主張されていた季節,気候,風向などにより遷移行列を切り替えるというアイデアは,CARATSデータ上では十分に有効性が確認できず,それらの要因よりも時間帯による状態遷移行列の変化が大きかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セクター間交通流モデルとして標準的な方法である線形状態方程式表現を用いたモデルを実データから構築し,ステップ単位(数十分~数時間)の交通量予測に関しては予測精度が95%以上となり,十分な有効性が確認できた.ただし,札幌センターなど交通量が少ないセンターでは予測精度は70~80%にとどまった.その理由として,状態遷移行列がスパースなため誤差が大きく出る,あるいは航路の特性の問題などいくつかの要因が考えられる.それらを考慮したモデルの改良が今後の課題として残された.以上を考慮して「おおむね順調」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
線形状態方程式表現は個々の航空機に関する情報を用いないマクロモデルである.R3年度は,航空機の航路情報など個々の航空機依存の情報を取り入れたメソスコピックモデルの構築を目標とする.そのための手段としてプロセスマイニング技術を用いる.航跡データから各領域への進入をイベントとしたイベントログが生成できる.イベントログのプロファイリング手法を用いたデータの特徴付けや,将来のイベント発生を予測する確率モデルの構築など,プロセスマイニング技術を適用することでメソスコピックモデルの構築を目指す.また,研究会で発表した論文の内容を拡張し,論文誌に投稿する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により国内外の会議がすべてオンライン化されたため,旅費は全く使用せず予算の残額が生じた.コロナ禍はR3年度も続くことが予想されるため,今後は,オープンアクセスジャーナルや,オンライン化された国際会議に積極的に論文を投稿する予定である.
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