研究課題/領域番号 |
20K04545
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
前田 佳弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70769869)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 精密サーボ / フィードフォワード制御 / 周波数応答 / 非線形要素 |
研究実績の概要 |
本研究は,摩擦や機械剛性に代表される非線形性を有する精密サーボ機構を対象に,位置決め動作時のプラント入出力信号から非線形システムをよく近似する低次の線形プラントモデルを同定するという独創的なシステム同定法に基づく位置決め制御法の開発を目的としている。2020年度は,問題の本質となる非線形な物理現象と見かけのプラント周波数応答関数(FRF: Frequency Response Function)変化の関係考察に主眼を置き,下記2点に取り組んだ。 1.非線形物理モデルの構築: 本研究で対象とするガルバノスキャナでは,軸受部の摩擦がFRFに与える影響は極めて小さいことが確認されたため,モータ・負荷結合部の機械剛性の非線形性を考慮した非線形2慣性物理モデルを構築した。 2.非線形性と見かけのプラントFRF変化の関係考察: 構築したモデルを用いて正弦波外乱印加時ならびに位置決め動作時のシミュレーションを実施したところ,実験結果に見られる主共振モードの周波数変化を再現することができた。時間応答に着目すると,当該非線形性は主共振周波数付近において2慣性の振幅・位相関係を変化させるように作用することが確認され,従来研究では不明であったFRF変化を招く物理現象が明らかとなった。 さらに,次年度以降に計画していた位置決め入出力信号を用いたプラントFRF推定法の構築に関する下記について,前倒しで着手した。 3.FRF補間アルゴリズムの構築: FRFの平滑性に着目して量子化誤差や雑音の影響を補正するFRF補正アルゴリズムのベースを構築した。本アルゴリズムは,FRF推定誤差が発生する周波数帯の推定に基づいて部分的な周波数帯でのみ補正を行うことを特徴とし,全周波数で補正を行うLocal Polynomial Model法と比較して理論的には計算時間を90%以上削減できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非線形性と見かけのプラントFRF変化の関係考察については,当初の研究方法に則って計画以上に進展し,2021年度以降に予定していたFRF補正アルゴリズムの構築に前倒しで着手することができた。また,2021年度以降の実験評価に向けた新しいデジタル信号処理システム(DSP)と位置センサモジュールの準備や,それに伴う実験システムの改造も同時進行で計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は,FRF推定誤差要因となる量子化誤差や雑音の影響低減を目的に,(a)出力センサの高逓倍率化,(b)出力オーバーサンプリング,(c)FRF補正アルゴリズムについて検討する。3方法とも理論的な考察を十分に行った上でシミュレーションによる原理検証を行い,その後に実験による推定誤差低減効果の定量評価を行う。また,理論考察やシミュレーションと並行して実験システムの改造を継続して進める。なお,本研究で新規に導入したDSPシステムは制御設計・解析ソフトウェアMATLABとの親和性が高く,実験の効率化が期待されるが,従前のC言語ベースのものより演算時間が長大化する可能性がある。演算時間が予想以上に長大化する場合は,DSPシステムに実装されているプログラマブルロジック回路(FPGA)を利用して演算時間の短縮を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により国内外の学会がキャンセルまたはオンライン化され,旅費や学会参加費が予算申請時の見込みより減額したこと,実験システム改造に必要な物品の購入が一部未完了であることが理由で次年度使用額が生じている。次年度は,プラントFRF推定法の検討のためのシミュレーションや実験で用いる高速PCの購入,実験システム改造のための物品の追加購入,研究成果を国内外の学会で発表するための旅費・参加費に助成金を使用する予定である。
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