研究課題/領域番号 |
20K04549
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
中茎 隆 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (30435664)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子ロボティクス / DNA回路 / 合理的設計 |
研究実績の概要 |
生体分子で構成される分子ロボットは,様々な要素技術が統合された知的システムである。医療分野での応用が期待されている分子ロボットを実用化へと進展させる上で,高機能なDNA制御回路の実現が求められている。DNA回路の実態は化学反応系であり,その構成分子であるDNA鎖が分子部品となる。しかし,分子間反応の熱力学的ゆらぎの影響を受けるため,DNA鎖は回路設計の分子部品という観点では信頼性が低い。ここに,信頼性の低い分子部品を使って信頼性の高いDNA回路を設計するための基礎論と設計法が求められている。 そこで本研究では,(1)信頼性の低い分子部品から信頼性の高いDNA回路を設計するための基礎論を確立し,(2)分子ロボットに搭載可能な高機能な制御回路を設計することを目指す。 (1)に関連して,DNA回路の合理的設計において,3種類の基本反応系(Catalysis・Annihilation・Degradation反応)を組み合わせて複雑な機能を持つ回路を設計する手法が知られている。この手法を用いてPI制御系やPID制御系を設計することは原理的に可能であり,シミュレーションレベルでその有効性は確認されているが,実験レベルでの動作検証は未だ達成されていない。実験においては,上述のようにDNA回路におけるDNA鎖という分子部品の信頼性(結合の特異性)の低さがボトルネックとなるためである。本研究では,理論と技術の両面からこの課題の解決を目指すが,2020年度はDNA分子の機能拡張を図るべく,光応答性分子アゾベンゼンを用いた設計法に取り組んだ。アゾベンゼンとはDNA鎖の二本鎖構造を紫外光により不安定化させる物性を持ち,近年,DNAコンピューティング分野において注目されている。DNA鎖に対してアゾベンゼン修飾を戦略的に行うことで,3種類の基本反応系を繰り返し再利用可能とする設計法を考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,(1)信頼性の低い分子部品から信頼性の高いDNA回路を設計するための基礎論を確立し,(2)分子ロボットに搭載可能な高機能な制御回路を設計することを目指している。 (1)に関して:DNA鎖に対して,アゾベンゼン修飾を戦略的に行い,合理的設計に必要な3種類の基本反応系(Catalysis・Annihilation・Degradation反応)を繰り返し再利用可能とする設計法を考案した。この点に関して,2020年度内に原理検証をシミュレーションレベルで達成し,査読付き国際論文(第1著者は指導大学院生)として発表した。本研究成果は,当該国際会議において,第1著者が35歳以下の研究者に対して送られる賞の最終候補(5件)に選ばれた。 (2)に関して:分子ロボットに搭載可能な制御回路として積分フィードバック回路を設計している。実験検証を見据えたDNA鎖の構造設計(ドメイン設計)と反応系設計を行い,シミュレーションレベルで確認している。また,上記(1)と同様に光応答性分子アゾベンゼンを用いて,制御回路の長時間駆動を可能とする設計法も考案し,シミュレーションレベルで有効性を確認している。本研究成果については,途中経過を国内学会においてポスター発表にて成果報告している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,(1)信頼性の低い分子部品から信頼性の高いDNA回路を設計するための基礎論を確立し,(2)分子ロボットに搭載可能な高機能な制御回路を設計することを目指している。 (1)に関して:合理的設計に必要な3種類の基本反応系(Catalysis・Annihilation・Degradation反応)に対して光応答性分子アゾベンゼンを導入し,回路を高機能化する方法論の実験検証を行う。しかし,アゾベンゼン修飾されたDNA鎖を用いてDNA反応系を設計した際に,そのダイナミクスがどのように変化するかについては未知の部分が多く,特に見かけの反応速度定数がどのように変化するのかの知見はほとんど存在しない。この理由として,これまでアゾベンゼンはDNA鎖の2本鎖構造を不安定化させる物性から,分子構造の変化に興味が持たれてきたからと言える。本研究では,反応系のダイナミクスを変化させる観点で光応答性分子を活用するため,2021年度は基礎的な実験データを丹念に集めていく計画である。 (2)に関して:2020年度に構築した積分フィードバック制御系と光応答性分子アゾベンゼンの導入による長時間駆動に関して,方法論とシミュレーション検証を完成させ,学術論文として執筆する。その上で,(1)の進捗と合わせて実証実験に向けた検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は261円であるため2020年度は計画通りに執行できている。
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